フリマアプリのメルカリが、新たなフェーズに踏みだそうとしている。「テックカンパニーへの進化」がその目標となるが、今後の成長を描くにはこれが不可欠な要素だと同社は考えているようだ。

UX/マーケ力でユーザー拡大も、今後は技術力を磨く

メルカリ 代表取締役会長兼CEO 山田 進太郎氏

メルカリはフリマアプリの代表格で、アメリカやイギリスでも急伸。総ダウンロード数が1億回を超えた。メルカリ 代表取締役会長 兼 CEOの山田 進太郎氏は、成功の要因を「創業経営陣はエンジニア経験があり、UI/UXにこだわってきたこと」と話す。その一方で不正な商品の出品が社会問題化したことから、自動検知の仕組みを導入するなど、バックエンドの技術力も磨いてきた。

「最近では、AIの活用で使い勝手を向上させた。出品する商品の写真を撮るとタイトルやカテゴリ、適正な価格などをサジェストすることで、出品率や販売率が上がった。また、不正な出品を検知したり、米国では重量の自動推定を行って重量のシッピングラベルを提供し、手間の削減と配送コストを削減するといった効果も出ている」(山田氏)

そうした状況から、より技術開発に力を入れ「テックカンパニーを目指す」方向性を打ち出す山田氏。これはFacebookの戦略と同じと語る。

「Facebookも最初は使い勝手のいいサービスが差別化となり、ユーザー数を拡大してきたが、ここ数年はタイムラインに興味があるものを表示したり、より簡単に動画をアップロードできるようにするなど、テクノロジーで他社の追随を許さない体制を作っている」(山田氏)

メルカリでは今後、各種技術のロードマップを策定し、3年で1000人規模まで技術者を拡大するほか、外部企業と共同研究および社会実装を行い、日本を代表するテックカンパニーを目指すという。

シャープや東大らと連携

こうした取り組みの一つが、研究開発組織「Mercari R4D(アールフォーディー)」の設立だ。

R4Dの名称は、調査(Research for)および開発(Development)、設計(Design)、実装(Deployment)、破壊(Disruption)という4つのDから構成されており、基礎研究や応用研究を試験・調査するだけに留まらず、外部の企業や教育機関との連携によって、社会実装を目的にしているのが特徴だ。

R4Dに関する研究開発投資は、2018年度に数億円規模を想定。山田氏は「2、3年後にメルカリのビジネスに影響すると思われるIoTやAI、VR/ARといった技術に取り組んでいくことが、当社の競争力を高めることにつながるだろう」と見る。R4Dの代表となるR4Dオフィサーにはメルカリの木村 俊也氏が就き、シニアフェローには、現代アーティストのスプツニ子!氏、京都造形芸術大学 教授の小笠原治氏が参画する。

連携パートナーと研究テーマは下記の通り。

  • シャープ 研究開発事業本部 (8Kを活用した多拠点コミュニケーション)
  • 東京大学川原研究室(無線給電によるコンセントレスオフィス)
  • 筑波大学落合研究室(類似画像検索のためのDeep Hashing Network、出品された商品画像から物体の3D形状を推定、商品画像から背景を自動特定)
  • 慶應義塾大学村井研究室(ブロックチェーンを用いたトラストフレームワーク)
  • 京都造形芸術大学クロカテック研究室(Internet of Thingsエコシステム)
  • 東北大学大関研究室(量子アニーリング技術のアート分野への応用)

パートナーの一つ、シャープ 常務 研究開発事業本部長の種谷 元隆氏は、「メルカリはインターネット中心の企業から、技術の企業へと変革を進めようとしており、ストレスフリーの社会の実現に取り組んでいく。一方でシャープは、研究開発を『価値を生み出す事業』のひとつであると考えている。研究成果をβ版の段階からいち早く実装し、2023年に実装をすると思われているようなものを、2019年に実装したい」と話した。

具体的には、8Kディスプレイによるオフィスコミュニケーションや、遠隔地にいる友人などとAR/VRを活用した疑似スポーツ体験、医療支援などを検討しているほか、「遠隔地にいる人と、感情(エモーション)まで共有できるようなサービスを考えたい」(種谷氏)という。特にオフィスコミュニケーションでは、映像のリアリティや、遅延の無い音声伝送の実現が必要となるため、こうした課題を共同研究で乗り越えたいとした。

一方で現代アーティストのスプツニ子!氏は、「今後は、未来の可能性を提示し、先導するデザインをDesign-Led Xが重要である」と話す。例えば、学生に対してアートやデザインの観点から発想を求めると、入院したときに病室が自動運転車になれば退屈しないで済むといったアイデアや、お墓参りが面倒であれば、お墓が向こうからやってくるという仕組みを考える学生もいたという。

こうしたアートやデザイン的な発想が、新たなテクノロジーを生むこともあるとして「アートやデザインの観点から活動に貢献していきたい」とスプツニ子!氏は話した。