「営業」の仕事はどう変わっていくのか?(写真:xiangtao / PIXTA)

今日のセールス・エグゼクティブ(営業部門の幹部)に課せられた使命は、市場平均レベルの成長ではなく、それをはるかに上回る、大きな売り上げ成長を実現すること。そんな難題を解決するためのマッキンゼーの最新の知見が凝縮した『SALES GROWTH』には、どのようなことが書かれているのだろうか。

野村総合研究所の調査レポートによると、10〜20年後には日本の労働人口のうち約49%の職業において、人工知能やロボット等で変えることが可能になるという、まさに人工知能時代が到来する。

これだけ聞くとまるで映画のような話だが、人工知能の急速な技術面の発達によって、実際に人間の仕事が奪われる事態も起きつつある。

人工知能アナウンサーも登場

たとえば今年、メガバンク3行の業務量削減策という事実上の大規模リストラが報じられたことは記憶に新しいだろう。まず、みずほフィナンシャルグループが今後10年で1万9000人分の業務量削減をするという意向を示し、三菱UFJフィナンシャル・グループは約9500人、三井住友フィナンシャルグループも約4000人相当の業務量を減らす方針が立て続けに報道された。過去最大級の銀行員リストラの背景には、いずれも人工知能を取り入れた業務の自動化が関係している。

このように一般事務や受付窓口の業務をはじめ、他にも人間にしかできないと思われてきた仕事も変動しつつある。エフエム和歌山では2017年7月よりAmazon Web Serviceの人工知能サービスAmazon Pollyを用いて、人工知能アナウンサー「ナナコ」によるニュースや天気予報等の放送を運用している。アナウンサーを人工知能にすることで人間には体力面で厳しくなる深夜や早朝はもちろん、災害時の活躍も期待されている。

このように多くの仕事が人工知能によって変化を強いられる中、「営業」の仕事も完全に例外とはいえなくなってきている。

本書ではコールセンターのオペレーターの事例が挙げられる。たとえば顧客が新しいサービスを契約しようと電話をかけたとき、オペレーターにつながれるまでに順番待ちを強いられることはしばしば起こる。しかも、ようやくオペレーターが出てきたところで、インターネットで入力した項目の確認などに時間をとられ、利用開始までに長時間を要することも多い。

しかし、同様のサービスでも人工知能のオペレーターを使用している会社の場合、ワンクリックですぐに向こうから電話がかかってきて、顧客の希望する使用状況から最適なプランを抽出し、実際に契約を含めて利用開始まで10分程度で済んでしまう。これはアメリカですでに起きていることである。

この人工知能のオペレーターの理解力は、質問が曖昧でも対応できる。その上、過去の経験を活用し、顧客が本当に必要としているものを確かめる質問を投げかけることも可能だ。また万が一の場合には、人間の助けが必要かどうか判断する能力も備えている。

助けを借りた場合には、対処法を学習するので、次に同じことが起きたときは自力で対応するようになる。もちろん企業側のコストの問題からいっても、人工知能は人間を雇うよりも50%もコスト効率が高くなっている。

このように購買のプロセスはすでに自動化された人工知能に移っており、すでに全支出の15〜20%がeプラットフォームを通じてされているのだから、営業も同じ道をたどると考えるのが自然である。

人工知能を雇うことのメリット

2020年までに、顧客は企業とのやり取りの85%を、人間を介さずに行われるようになると考えられている。そして同時に、現在企業の営業活動の4割が既存の技術を使って自動化が可能であることもわかっている。特にエンジニアリング業界では、人工知能の言語理解力と管理側の運用能力があがれば、その割合は半分近くになる。

人工知能によって業務をオートメーション化することで、企業側は処理時間が短縮される上に、顧客側は営業マンの知識不足にいらつくこともなくなる事実も否めない。


リーディングカンパニーではすでに、これらの技術が自社の営業プロセスにもたらす恩恵を実験的に検証している。

特にカスタマージャーニーの初期ステージにおけるやり取りに着目している例が多く、たとえばAIアプリケーションを使えば、見込み客との接点をつくるだけでなく、見込み客を絞り込み、フォローアップし、維持するという時間のかかる作業を肩代わりしてもらえる。AI企業は「手作業の3倍の効率で有望な見込み客を発見し、育成することを可能にする」人工知能プラットフォームを展開している。

たとえば6300万人の顧客をもつ無線通信企業のTモバイルUSは、競合他社に対抗するために最前線で顧客と関わるコールセンターに注目した。売り上げと契約維持率の両方を高め、顧客満足度を改善し、人件費を抑えるために、彼らがまず注目したのはコールセンターの最適化企業であるアイフィニティだった。

アイティニフィでは発信者のIDを使ってフェイスブックやLinkedInなどソーシャルメディアなどをスキャンし、似たようなユーザーの行動を把握するというユニークな人工知能技術を持っていた。また、膨大な通話履歴をスキャンし、コールセンターでオペレーターの行動パターンを解析する機能も備えられ、顧客を最も相性がよいと思われるオペレーターにつなぐことも可能になった。

アイフィニティのように顧客の行動をもとに発信者とオペレーターをマッチングするシステムはユニークではあるが、営業オートメーションの世界では異端というわけではない。データ主導によって売り上げと収益の獲得を最適化および自動化する技術はここ1年間で台頭してきており、アイフィニティのシステムもこの流れのなかに位置づけることができる。

こうした技術を使えば、データベースやソーシャルメディア等の解析可能なデータをスキャンし、受注確度を予測したり、最適な商品を特定したり、マーケティング効率の知見を深めたりする手がかりが手に入る。営業アプリケーション市場は2010年から2015年にかけて7%拡大しているが、この傾向は2019年まで続くが、その頃には93億ドルもの市場規模に達すると予想されている。

他社に先駆けて営業に人工知能を活用している企業では、見込み客やアポイントメントの件数が5割以上増えたり、コストが4〜6割も削減されたり、また電話営業の時間が6〜7割短縮されたりといった実績も出ている。顧客ニーズが早く満たされることで顧客満足度もあがる。

しかも、人工知能には忘れることがないので、メール等を通じて数週間から数カ月も見込み客を温存しておくことも可能になる。

営業マネジメントの再編をせざるを得ない状況に

では将来的に営業マンは必要なくなってしまうのだろうか。


マッキンゼーのコンサルタントたちは、いずれ絶滅するという予測は行き過ぎかもしれないと述べている。しかし、企業は自動購買のAIシステムやリバースオークションを積極的に用いるようになってきている。もはや書類かばんをさげた営業マンが前時代的であることに議論の余地はなく、営業マネジメントの再編をせざるを得ない状況になってきている。もちろん人間の知恵が必要な案件については、人間との会話をすることになるが、それでも勢いはとまらない。

今後、営業マンにとって最も課題となるのは、次々と現れるテクノロジーについていくことになるはずだ。これは突きつめれば、どの技術を取り入れればよいかを理解するとともに、こういったITプラットフォームを迅速に営業プロセスに組み込むために組織の学習と適応能力の両面における柔軟性を持つということを意味する。今後営業向け技術の開発競争を勝ち抜くには、テクノロジーを使いこなす新たな人材を育てることも重要になるだろう。