ガイア仮説のラヴロック博士がつくった豪華な「地球の絵本」

「ガイア仮説」で知られる現在97歳の科学者ジェームズ・ラヴロックが、名だたる科学者・作家たちとともにある1冊の絵本をつくり上げた。『The Earth and I』は、いつか訪れる地球滅亡を生き延びた人々に向けて書かれた「地球の解説書」だ。
ガイア仮説のラヴロック博士がつくった豪華な「地球の絵本」

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ジェームズ・ラヴロックは、何十年もアポカリプスについて考えてきた。あるとき彼は、もし大量絶滅が起きた場合、生存者たちにはあるマニュアル──かつて世界がどのように機能していたのかを説明する文書──が役に立つかもしれないと考えた。

「必要なのは科学の入門書。つまり、科学を明確に、わかりやすく記述することである」。ラヴロックは1998年の「A Book for All Seasons」と題されたエッセイにそう書いている。ラヴロックの言葉を借りれば、それは地球が焦げ果てたときに備えるための「科学の聖書」だという。

The Earth and I』は、彼が目指した「科学の聖書」ではない。しかし、わかりやすい言葉で、地球がどのように現在の状態になり、どのように機能し、そしてわれわれ人類がどれほど地球に影響を与えているのかを説明している。

ラヴロックは、タッシェン・ブックスのマーリーン・タッシェンとともにこのを編集し、12人の科学者と作家に各章を担当してもらった。ゲスト作家の顔ぶれは錚々たるメンバーだ。

ハーヴァード大学の素粒子物理学者でベストセラー作家のリサ・ランドールは、原子から物体まで、宇宙空間のスケールに関する章を担当した。ノーベル賞受賞者のエリック・カンデルは神経科学の章を担当し、どのように動物(人間も含む)が意思決定を行っているかを書いている。ピューリッツァー賞を2度受賞した生物学者のエドワード・オズボーン・ウィルソンは、生物圏と絶滅する生物種について書いた。本書は非常に情報量が多いにもかかわらず、わかりやすい。

『The Earth and I』は、おそらく読者とその家族がポストアポカリプスの世界を生き延びるためには役に立たないかもしれないが、地球の進化に関するわかりやすい解説書にはなっている。絵本と教科書が合体したようなもの、と考えればいいかもしれない。豊富な情報が詰まった各章には、色鮮やかで見やすいイラストとデータヴィジュアライゼーションが含まれている。

「データや挿絵が非常に豊富です」と3年かけてこの本のイラストを手がけたジャック・ハドソンは言う。ハドソンのユーモラスなスタイルは、カラフルで楽観主義的な1950年代のアート風で、本に登場するキャラクターたちは、イームズのラウンジチェアに座ったり、マルティーニを手にしたりして、いつもディナーパーティをしているかのように見える。

ILLUSTRATION BY JACK HUDSON/TASCHEN

同時に、『The Earth and I』の絵は正確でもある。ハドソンは、参加した作家のほとんどとともに作業を行い、そのイラスト(例えば、原子核のサイズをサッカー場とアリを比較することで説明する図)は教科書レヴェルの正確性を保っている。

これは簡単な作業ではなかった。「常に数名の科学者にメールで確認するようにしました」とハドソンは言う。「その反応のいくつかは、『これは間違い』『これも間違い』といった感じでしたね」

しかし、独自のメタファーを用いながら刺激的な科学のトピックをよりわかりやすく説明してくれた科学者もいた。それは、『The Earth and I』の目的を果たすのに役立った。ラヴロックが対象とする読者は、サイエンスコミュニティに属している人ではなく、むしろ自然と触れ合うことがなくなったすべての人々であるからだ。

「夜に星も見えないような大都市に住んでいると、世界を感じることがなくなってしまうでしょう」とラヴロックは言う。「非常に光害が多く、鳥のさえずりを聴くこともありません。“普通の世界”から隔離されてしまうのです」

このように都市での生活は、地球をひとつの自己制御システムとして説明するラヴロックの「ガイア仮説」とは相容れない。生物は地球で生存しているだけでなく、地球と共存しているのだと、ラヴロックはその仮説を通して伝えている。

NASAに勤めていたラヴロックがガイア理論を提唱した1960年代前半以降、多くの人が都市に移住した。つまり、人々が星や鳥と触れ合うことが少なくなったということだ。

外に出て、自然を見てみることに勝る手段はない。そうすることで、この世界についてもっと多くの気づきを得ることができるだろう。


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TEXT BY MARGARET RHODES