生物学者●長谷川英祐氏

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同じ事を繰り返していれば、誰でもうんざりする。しかし「デキる人」は、飽きたら飽きたなりに続けることができる。なぜなのか。脳科学者、心理学者、生物学者という3人の専門家に「『ダメな自分』を5分で変える方法」を聞いた――。(第2回、全5回)

※本稿は、雑誌「プレジデント」(2016年10月3日号)の特集「毎日が楽しくなる脳内革命」を再編集したものです。

■クワガタを撮影し続けたら……

重い腰を上げて仕事を始めてみたものの、集中できずにすぐネットを見てしまう。健康のため、自分でやると決めた習慣が3日坊主で終わる。こんなときは自分の飽きっぽさが恨めしい。

「たとえば何時間も単純作業をしなければいけないようなときは、自分なりの目標を立てるといいですよ」

と言うのは、生物学者の長谷川先生だ。「いかに短時間で終わらせることができるか」「どれだけきれいに仕上げることができるか」などに挑戦しながら取り組むことで、ゲームのような面白さが生まれるというわけだ。

「私も先日、200匹分のノコギリクワガタの体の表と裏を撮影して画像に取り込むという地味な作業を3日かけてやりましたが、まあ、正直言って飽きますね。でもうんざりしながらイヤイヤやるよりは、少しでも楽しみを見つけたほうがいい」(長谷川先生)

このように自分で楽しみを見つけることができるのは、脳が健全な状態であることの証拠だと医学博士の加藤先生は言う。

「逆に言えば飽きっぽいというのは、自分で楽しみやワクワクする気持ちを見つけられない状態です。自分から動くのが面倒臭いと、他人への依頼心が強くなってくる。重症になると、レジャーの計画を他人がお膳立てしてくれても、『それ、面白くないよ』などと言うようになります」(加藤先生)

■「楽しかった日記」をつける

また右脳の理解系脳番地が使われていないと、笑いに鈍感になってくる。人を笑わせることができないし、逆に誰かが冗談を言っても、それに反応できずポカンとしてしまうのだ。これを改善するには、意識的に自分からジョークを言うようにすること。

「1日1回、駄洒落でもなんでもいいから面白いことを言おうと心がけてください。これを1カ月も続ければ、やる気や根気がよみがえってきます」

うれしい出来事やハッピーな気持ちだけを綴る「楽しかった日記」をつけるのもいいと加藤先生はすすめる。

「楽しかったことを思い出すとワクワクしてくるでしょう。するとさらにほかの楽しかった思い出が芋づる式に引っ張り出されてきます。これは記憶系脳番地を刺激するトレーニングです」

あるいは、あまりにも飽きっぽいなら、運動不足を疑ってみよう。

「だるくて何もかも面倒臭いようなとき、普通は疲れて運動能力が落ちているのだと思いますよね。でも、本当は運動に関する脳番地を使っていないからだるくなるのです」(加藤先生)

■お手本はバスケ選手

現代人は、仕事が忙しくなればなるほど座りっぱなしで運動不足になりがちだ。同じ脳番地を使い続けているとストレスがたまるが、そのストレスは脳への酸素供給がうまくいかないことが原因。ちょっと違う脳番地を使うことによってリセットされる。運動によるリセットは手軽でやりやすい方法だろう。営業の外回りで1日中動いているような人は別として、1駅分くらいなら電車やバスに乗らず歩くなどして、体を動かすことが脳のコンディションを整えることになる。それになにより、運動をすることで持続性と集中力が高まるのだ。

「家が駅から遠いとぼやく人は多いですが、本当はそういう人はラッキーなんです。駅から徒歩15分の人は、徒歩5分の人に比べて間違いなく脳の状態がいいはずです」(加藤先生)

週末はスポーツで汗をかくようにするのはもちろん、1日中パソコンのモニターを睨んでいて疲れた日こそ、帰宅後はジョギングをしたほうがいい。ウオーキングなら1日7000歩以上、1週間で5万歩以上を目標にしたい。

「運動の種類は何でもいいですが、スタートとストップを意識するとさらに効果的です」(同)

運動を始めるときはともかく、終わらせるときは「疲れたからこのへんで終わろうか」というように、徐々にやめることが多い。そうではなく、たとえばバスケットボールの選手が素早い動きをピタッと止めるように、「ここで終わり」という意識をしっかり持つようにする。すると日々の生活でもオンとオフの切り替えが楽にできるようになるのだ。なかなか仕事に取りかかれないわりに、帰宅後、いつまでも仕事のことが頭から離れずリラックスできないという人は、ぜひ試してほしい。

■誰だって仕事に飽きている

「飽きっぽいというのは、かなり問題ですね」と言うのは、心理学者の諸富先生だ。

「長期的に見れば、だらしなくて片付けられないということより、はるかに重大な性格上の欠点です。というのも、人間が幸福や成功を実現するためにいちばん大事な力は、無我夢中になれるかどうかなんです。これをポジティブ心理学で『エンゲージメント力』と言います。これがないのは大きなマイナスですから、直したほうがいい」

あまりにも飽きっぽい人は仕事が長続きせず転職を繰り返す。そうなるとキャリアが形成できず、非正規雇用を転々としたりすることにもなりかねない。もっとも、「そこまでひどくなければなんとかなる」と諸富先生は言う。

「誰だって大なり小なり仕事に飽きているんです。僕だって、同じことを繰り返していればうんざりする。でも飽きたら飽きたなりに、何とか続けていければそれでいい。それは人間の大事な能力です」

諸富先生は、今回のすべての悩みに対して、心理学の「リフレーミング」という考え方が使えると言う。

「リフレーミングとは、別の枠組みで本質を捉え直すということです。つまり角度を変えて眺めてみると、短所が長所に変わることはよくあります。だらしない人は別の言い方をすればおおらかだし、言いたいことが言えない人は相手の気持ちを尊重するやさしさがあるということ。細かいことが気になる人は、慎重だから大きな失敗をすることが少ないとも言える」(諸富先生)

飽きっぽい性格をリフレーミングしてみれば、「多様な好奇心を持っている」とも言えるだろう。

「せっかくいろいろなことに興味を持っているのだから、なんでもやってみればいいんです。興味の湧いたものを試しているうちに、夢中になれるものが見つかる可能性は高いと思いますよ」(同)

▼「To Doリスト」より「Not To Doリスト」をつくろう
心理学者●諸富祥彦

「ダメな自分」を変えたい。そう願うあまり、会社の立場という役割を果たし、仕事に猛烈に明け暮れる。あるいは父親、母親という家庭での役割を演じる。すると、自分自身でも気付かないうちに人は「自分」を見失ってしまうことがあります。

そうならないために、私が提案したいのは「Not To Doリスト」(これはしないと決めたことのリスト)をつくることです。「To Doリスト」(すべきことのリスト)は多くの人がつくります。しかしこれをつくると、人生がリストをこなすための単なる手段になり下がります。本当にしたいかどうかわからないことを「すべき」と考えてしているうちに、ずっとし続けることになりがちです。やがて「本当に今自分がしたいことは何なのか」が自分でも見えなくなってしまいます。

まず「心の空きスペース」をつくること。人生は時間もエネルギーも有限です。後悔しない人生を生きるためにも「したいのかどうかわからないことをしない」ことを目指したいですね。

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加藤俊徳
医学博士。加藤プラチナクリニック院長。「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。1万人以上のMRI脳画像とともにその人の生き方を分析する。
諸富祥彦
心理学者。明治大学文学部教授。臨床心理士。千葉大学教育学部講師、助教授を経て現職。中高年を中心に仕事、子育て、家庭関係などの悩みに耳を傾けている。
長谷川英祐
生物学者。北海道大学大学院農学研究院准教授。大学時代から社会性昆虫を研究。著書にベストセラーとなった『働かないアリに意義がある』などがある。

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(ライター&エディター 長山 清子)