なぜだ? 中小経営者が、女性を管理職にしたがる「腹の内」

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■社員30人未満の会社なら、5人に1人が女性管理職

2016年4月1日から「女性活躍推進法」が施行され、従業員数が300人を超える企業には一般事業主行動計画の策定や公表等が求められています。一方、300人以下の企業については、努力義務に留まっています。中小企業のなかには、女性の活躍推進に向けて、どのようなことに取り組むべきか、悩んでいる企業も少なくないのではないでしょうか。

今回は、中小企業*における女性の活躍推進について、現場の人事コンサルティングの経験も踏まえて、述べたいと思います。

*中小企業基本法の定義に基づく中小企業者及び小規模企業者を、本稿では「中小企業」という表現を用いて述べています。

【1:中小企業の女性管理職比率はなぜ高いのか?】

厚生労働省「平成27 年度雇用均等基本調査」によれば企業の規模が大きくなるほど、「課長相当職以上の女性管理職を有する企業」の比率が高くなっています。

●「課長相当職以上の女性管理職を有する企業」の比率
5000人以上規模:98.1%
1000〜4999人規模:75.1%
300〜999人規模:62.9%
100〜299人規模:55.0%
30〜99人規模:59.2%
10〜29人規模:59.2%

となっています。

一方、女性管理職(人数)の比率に着目すると、意外なことに、異なる結果が表れています。

今度は規模が小さくなるほど女性管理職比率が高い傾向がみられ、課長相当職以上の女性管理職の比率は、

●「課長相当職以上の女性管理職」の比率
5000人以上規模:5.4%
1000〜4999人規模:4.2%
300〜999人規模:4.8%
100〜299人規模:6.4%
30〜99人規模:13.7%
10〜29人規模:22.7%

となっています(次ページ図表1)。

■なぜ中小企業は女性を管理職に登用するか?

加えて、女性の昇進者比率においても、おおむね規模が小さくなるほど高い傾向がみられ、課長相当職以上への女性昇進者比率は、

●「課長相当職以上への女性昇進者」比率
5000人以上規模:9.5%
1000〜4999人規模:5.9%
300〜999人規模:7.4%
100〜299人規模:8.9%
30〜99人規模:13.6%
10〜29人規模:22.4%

となっています(図表1)。

このことからは、中小企業においては、女性管理職の活躍状況は大企業に比べて非常に進んでいるということを示しています。

さらに、筆者の現場の経験からは、以下のような特徴を有する経営者の方々が経営される企業は、女性の管理職が自然に増えているという印象を持っています。

「海外駐在などで多くの女性が管理職として活躍しているのを見た経験がある」
「仕事内容を性別で固定化させる意識を持っていない」
「女性の活躍がイノベーションの創出など経営のメリットがあると考え、より女性を活躍させたいと考えている」

中小企業は従業員数が少ない分、経営者の考えがすぐに現場に反映されやすいという特徴があります。実は中小企業には、女性の管理職の数値目標の議論を行う以前に、経営者の考え方次第で、自然と女性管理職が増えてきた企業が多く存在するのではないでしょうか。

■設置率 女性専用トイレ74%、女性専用更衣室53%

【2:男性が多い業界ではハード面の改善が課題】

ただし中小企業のなかには、男性が圧倒的に多く、女性の活躍が大きな課題となっている業界・職場も少なくありません。

その代表的な業界の1つは建設業です。

国土交通省「建設業における女性の活躍推進に関する取組実態調査」(平成27年)では、建設業における女性の活躍に関する取組の実態を調査するために、アンケート調査を行っています。回答企業の約9割は、300人未満の企業です。

調査のなかでは、設備面での取組状況について、
「会社に女性専用トイレを設置している」74.3%、
「女性専用更衣室を設置している」53.8%

となっています。さらに、「現場に女性専用トイレを設置している」(19.8%)という回答は、約2割程度です。女性が安心して働くためには、設備などハード面を改善する余地が残されているといえます。

筆者はある中小企業から、次のような話をお伺いしました。

その会社では、女性の専用更衣室がなかったため、会社のレイアウト変更が発生した時に、ようやく女性の専用更衣室が設置されると女性従業員たちはとても期待したそうです。しかし、レイアウト変更案を見たときに、更衣室は男女共用のままとなっており、勇気を出して女性従業員が男性上司に対して要望を伝え、女性の専用更衣室の設置が実現したそうです。男性上司も、決して悪気があったわけではなく、言われるまで全く気づかなかったのが実状でした。

女性の活躍推進のためには、設備などハード面の課題について、女性従業員とのコミュニケーションをきちんと取り、きめ細やかに対応していくことが必要だといえます。

■中小企業の課題は、女性育成の研修を増やすこと

【3:労働人口減少に備えて計画的な女性の育成を】

先ほど、中小企業においては、女性の活躍は非常に進んでいるという話を述べました。

そのような企業では、能力やモチベーションの高い女性がいれば、自然体で女性を登用しているということでしょう。しかしながら、筆者の現場の経験からは、そうした中小企業が組織として計画的に女性社員育成に取り組む例は少ないという印象を持っています。

厚生労働省「平成26年度雇用均等基本調査」によれば、女性の活躍を推進する上で「研修の付与」が必要だと考えている企業は、

●女性の活躍を推進する上で「研修の付与」が必要だと考えている企業の割合
5000人以上規模:64.4%
1000〜4999人規模:53.9%
300〜999人規模:44.2%
100〜299人規模:39.1%
30〜99人規模:36.8%
10〜29人規模:28.8%

となっています。規模が小さくなるに従って、女性の活躍に関する研修の必要性に対する認識が薄い状況が窺えます。

今後は、少子高齢化に伴い、労働人口が減少していきます。人手不足になることが想定されるなかで、既に雇用している女性を育成するということに今まで以上に真剣に取組むことが求められます。

女性が結婚や出産などのライフイベントを理由に、仕事キャリアが途切れることなく能力開発を続けられるように、女性や管理職に対する教育支援を強化していくことも必要だと考えます。もし、初めて取組む企業であれば、きっかけづくりとして、自治体などが実施しているセミナーを活用されるのも一案ではないでしょうか。

(日本総合研究所 創発戦略センター ESGアナリスト 小島明子、リサーチ・コンサルティング部門 マネジャー 榎本久代=文)