郊外路面店の多くは緑の看板と白い外壁に改装、イメージチェンジを図っている(記者撮影)

12月21日、福島市に「いきなり!ステーキ」の福島太平寺店がオープンする。69席の着席スタイルで、運営するのはラーメンチェーン大手の幸楽苑ホールディングス(HD)だ。

いきなりステーキを展開するペッパーフードサービスとフランチャイズ(FC)契約を結んで出店する1号店だ。2店あるとんかつ店の1つを業態転換する。今後も既存のラーメン店などを閉店・改装し、2018年3月末までに東日本で計6店をFCで出店する計画だ。

業績は上場後、初めて赤字に転落

幸楽苑がステーキ店を出店するのは、業績の低迷が続き、ラーメン店の自社競合が起き始めているためだ。幸楽苑HDの2017年4〜9月期(上期)は、1997年の株式公開以来、初の営業赤字だった。2018年3月期の通期でも純利益が初の赤字に転落する。


幸楽苑では、全店の1割に近い52店を今期中に閉店することも決めた。このうち6店が、いきなりステーキのFC店に生まれ変わるわけだ。

「上場20年という節目の年に初の赤字となり、たいへん申し訳ない。52店閉店で年間売上高25億円を失うが、同時に4億円の赤字も消える」

11月30日の決算説明会で、同社の新井田傅(にいだ つたえ)社長は神妙な面持ちで語った。

福島県郡山市に本社を置き、東北や北関東に店舗が多い幸楽苑は、2011年の東日本大震災の後、一時的に100店の休業に追い込まれたが、そのときでも黒字は維持した。現在の状況がいかに厳しいか、よくわかろうというものだ。

幸楽苑の凋落ぶりは、同じラーメンチェーン大手、「日高屋」を展開するハイデイ日高と比べるとより鮮明だ。

ハイデイ日高の場合、1999年の株式公開以来、増収が続き、純利益は今2018年2月期に13年連続で過去最高を更新する見通しだ。

店舗数は現在400店強で幸楽苑より100店以上も少ないが、2017年2月期の売上高は385億円で、初めて幸楽苑(2017年3月期の売上高は378億円)を上回った。

利益ではとっくの昔に幸楽苑を上回っており、過去5年平均の売上高営業利益率も12%弱と、2%に満たない幸楽苑とは比較にならない。

幸楽苑では、震災前の2010年3月期に過去最高の純利益を記録して以来、利益の低落傾向が続いてきた。特に2013年3月期以降は、競合激化による既存店の売り上げの落ち込みや、食材費の高騰などで利益水準が一段と低下している。

2015年6月には、食材費や人件費の高騰を理由に幸楽苑の代名詞でもあった290円(税抜き)の「中華そば」の販売を終了した。中華そばはかつて全売上高の3割を超えた看板商品だったが、販売終了以降、客単価は上昇したものの客足が減り、既存店の売り上げは前年を割り込む月が多くなった。

郊外か駅前かが、明暗を分けた


決算説明会で「初の赤字」に言及する新井田傳社長(記者撮影)

ハイデイ日高との差は、いったいどこからくるのか。ラーメンやギョーザを中心とするメニューに大差はない。

最大の違いは立地戦略にある。幸楽苑が北海道から広島、愛媛まで広範囲にわたり、郊外の路面店を中心に店舗を展開しているのに対し、ハイデイ日高は首都圏の駅前や繁華街に集中出店している。

立地戦略などの違いから、ハイデイ日高のほうが1店舗当たりの売上高は3割以上も多い。幸楽苑では、競争の激しい北海道や知名度の低い西日本には赤字店が多く、西日本ではこれまでも出退店を繰り返してきた。

駅前・繁華街立地を生かし、ハイデイ日高ではつまみメニューを増やして「ちょい飲み」需要を取り込み、好採算のアルコールを含めて売り上げを順調に伸ばしているが、郊外店の多い幸楽苑では車での来店客が多く飲酒運転になってしまうため、それもできない。

アルコールの売上構成比に占める割合は、直近でハイデイ日高が17%に達する一方、幸楽苑はソフトドリンクを含めてもわずか2%だ。両社の1店当たり売り上げの差は、アルコール販売の差による部分が大きい。

ちなみに、売上原価率はハイデイ日高のほうがやや低いが、これもアルコール販売の差で説明できる。加えて、営業利益率の大きな差につながっているのは、売上高人件費比率の差だ。幸楽苑のほうが売り上げが少ないのに店舗数は多いため、正社員数が多くなり、当然、売上高人件費比率は高くなる。

幸楽苑にとって大きな打撃となったのは、2016年9月に静岡県の店舗で発生し、10月に発覚した異物混入事故だ。

これは、調理作業中に誤って切断されたパート店員の指先部分が商品に混入してしまったもの。事故発覚後、客数が急速に減り、売り上げは落ち込んだ。昨年10月の既存店売り上げは前年同期比6.4%減、11月には実に同15.6%減となった。その後は少しずつ持ち直したものの、2016年下期の既存店売り上げは同5.4%減と苦戦した。

事故の影響はいまだに尾を引く。2017年上期の既存店売り上げは前年同期比2%減。ハイデイ日高が、客数増に支えられてプラス圏を維持しているのとは対照的だ。

幸楽苑でも、できるかぎりの対応策に努めてきた。外部専門家を含む再発防止対策委員会で対策をまとめ、本部への情報伝達体制を強化。事故の原因となったチャーシュースライサーを全店から撤去し、工場一括作業に切り替えた。

また、郊外路面店の8割近い約300店の看板や店舗外壁をこれまでの黄色と黒から緑と白を基調としたものに改装、イメージチェンジを図っている。

新規出店についても、従来より敷地面積や席数が少なく投資額も少ないコンパクト型の路面店や、フードコート店を基本とすることを決めた。コンパクト型は座席数が1店平均35席(従来型は同65席)で、投資額は約4000万円(同6000万円)と少ない。採用人員が1店10人(同15人)で済むため、人手不足の時代にも向いている。フードコート店も、ほぼ同様だ。

「いきなり!ステーキ」出店の舞台裏

しかし、それだけでは苦境に対応できなくなり、より抜本的なテコ入れ策として出てきたのが、今回の一挙52店の閉店と、いきなりステーキの出店だ。

まず52店閉店だが、いずれも赤字店で地域的には静岡以西が8割を占める。道府県で見ると、福井、滋賀、京都、岡山、北海道からは撤退予定だ。一方、今後のラーメン店の新規出店は、東北、関東に限定する方針を打ち出した。


FC契約締結の会見で握手するペッパーフード・一瀬邦夫社長(左)と幸楽苑・新井田昇副社長(記者撮影)

幸楽苑では、業績低迷が始まった5〜6年前から赤字店が増え始め、いったんは減ったものの、異物混入事故で再び増え、今回閉店する52店以外にもさらに50店程度ある。全店の2割近くが赤字店なのだ。ただ、「閉店しない50店は、閉店する52店と比べて赤字額が小さく、営業努力で黒字化できると判断した」(新井田社長)。

また、いきなりステーキ出店に関しては、新井田社長の息子である新井田昇副社長がペッパーフードの一瀬健作専務と会合などを通じて交流があり、2人の間で話がまとまったという。

ペッパーフードの一瀬邦夫社長は、「私にとって、幸楽苑の新井田社長はあこがれの方。30年以上、お付き合いさせていただいている。FC契約を機に、もっともっとやってほしい。いきなりステーキは今後、郊外店を増やす。シャッター通りの商店街にも出したい」と意気込む。

幸楽苑からすれば、急成長中で勢いのあるいきなりステーキの力を借りて、何とか会社を再生したい。新井田副社長は、「郊外店の客層はうちと似ている。それから商品特性がまったく違うので、ラーメン店とは競合を避けられる。この2点が、いきなりステーキを選んだ理由だ。出店は、既存店からの業態転換が基本」としている。

今回、閉店する52店の店名は、ペッパーフード側にも情報提供された。このため、今期の6店に続いて来期以降、競合関係などを吟味したうえで、いきなりステーキFC店に転換する店が出てこよう。

52店以外の赤字店などからも、次々と転換があるかもしれない。それらの多くが成功すれば、幸楽苑が再生に向かう可能性はある。

幸楽苑がラーメン店業態のまま、メニューや店舗運営方法を多少変えても、再生は容易ではない。それだけに、まずはいきなりステーキの最初の6店を成功させることが必要だ。