コラム:復活する独裁主義、共通する不吉な経済兆候

コラム:復活する独裁主義、共通する不吉な経済兆候
 1月12日、世界各国の政治体制に独裁主義が復活しつつある。ロシアのプーチン大統領(写真)、中国の習近平国家主席、トルコのエルドアン大統領といったあたりがその先駆けだ。昨年12月撮影(2017年 ロイター/Sergei Karpukhin)
Edward Hadas
[ロンドン 12日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 世界各国の政治体制に独裁主義が復活しつつある。ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席、トルコのエルドアン大統領といったあたりがその先駆けだ。主要国の指導者として権力を手にし、個人崇拝的な支持を確立している。
これらの支配者には多くの共通点があるが、マクロ経済政策となると話は別である。
かつては、強権的な政府というものは似たり寄ったりの経済目標を掲げていた。独裁体制が台頭した過去の時期として最も近いのは1930年代だが、イタリアのファシスト党も、ドイツのナチスも、雇用創出と産業振興を表明していた。スターリン率いるソ連とアタチュルク率いるトルコは、性急な近代化を推進した。少し時代は後になるが、毛沢東体制下の中国も同じ課題を掲げた。いずれも自給自足的な経済を支持し、不正な蓄財を嫌悪していた。
今日では、独裁政権が掲げる目標はさまざまである。プーチン氏は、2000年に初めて政権の座に就いたときは経済改革に関心を持っていたようだが、2003年には方針を変更した。それ以来、同氏は力強い現代的な経済を構築することにはほとんど関心を示していない。国際通貨基金の試算によれば、2006年の時点でロシア国民1人あたりの国内総生産(GDP)はドイツの53%だったが、10年後でも54%でしかない。
経済制裁が響いていることは確かだが、成長が見られない理由の大半は自業自得である。石油価格が10年間にわたって高水準を続けたことの恩恵は、投資に回されるのではなく、不当に誰かの懐に収まるか、浪費されてしまった。医療、教育、物理的インフラといった主要な公共システムは荒廃したままである。
2008年と2014年に石油価格が急落しても、プーチン氏の政策は変わらなかった。石油・天然ガスへの依存を減らすという点で、プーチン氏はほとんど何の手も打っていない。カーネギー・モスクワ・センターの2015年の分析によれば、ロシアGDPの57%、政府歳入の60%は、石油・天然ガスに依存しているという。
これと正反対に近いのが中国の成長志向だ。貧しかった中国にとって、ここ数十年はGDPの成長がすべての基準とされてきた。習主席は自称「新毛沢東主義」を掲げるものの、それが持続的な経済拡大という公約を妨げる様子は見られない。
この中国の体制のもとで、過去10年間、GDPは年平均10.2%の成長を遂げてきたとされている。だがGDPに執着するあまり、環境汚染や、GDP成長を押し上げるだけの無意味な投資など、それ以外の経済的問題がまん延する結果になっている。債務も急速に拡大しており、中国の金融システムは、定員オーバーの老朽化したジェットコースターのような状況を呈しつつある。
次にエルドアン政権下のトルコだが、これもやはりまったく違う状況だ。前首相の立場から現在では大統領となったエルドアン氏のもとで、独裁政権ならではの経済無策ぶりは驚くほどのひどさだ。プーチン氏同様、当初は経済の改善に関心を示していたエルドアン氏だが、その後はずっと経済以外の問題が優先されている。
結果として、国民1人あたりGDPはこの10年間で対ドイツ比40%から44%に伸びただけで、経済成長の実績はあまりパッとしないが、それさえも巨額の経常赤字に支えられている状況だ。同じ時期、経常赤字は対GDP比で平均5.7%となっている。インフレ率は年平均8.3%と政治不安を招きかねない水準だが、恐らくこれにも貿易不均衡が影響している。
だがエルドアン氏は、危機的なインフレや外国からの資金流入の途絶を心配するどころか、経済安全保障をますます低下させている。大半が高学歴であるギュレン運動支持者を政府から(最近では経済界からも)追放したことで、トルコ経済の能力と信頼性は確実に低下するだろう。
このように、現代では独裁体制をとる諸国の経済は非常に多様になっているが、1つ重要な共通点がある。
それは、独立心に富む企業の不在である。ロシア、中国、トルコの3カ国には、いずれも活発な民間部門が存在するが、どれほど資金と機会に恵まれていても、あえて政府の方針に楯突こうという起業家はいない。強力で恣意的な指導者に抵抗することはあまりにもリスクが大きいからだ。トランプ次期米大統領のツイートを見て投資計画を変更した米国企業も、同じ問題を抱えつつある。
新たな独裁体制のもとでは、厳しい締め付けの代わりにご褒美もある。政府内部であれ民間部門であれ、国家経済の内部に食い込めれば、米国企業のCEOでさえ引け目を感じるほどの巨富を得ることができる。自由な民主主義体制の国では「腐敗」と呼ばれる状況だ。
ロシア、中国、トルコでは、民衆から搾取する半ば公的な許可(ただし気まぐれに取り消されてしまう可能性もある)により、臆病な貴族社会が生まれている。政府に取り入るチャンスがある以上、習主席の進める腐敗撲滅キャンペーンの成功も限定的なものにとどまりそうだ。
独裁体制の復活はまだ最近の話である。だが、経済への関心よりも国内政策を優先する風潮は、グローバルビジネスにとっては不吉な兆候だ。それはより多くの腐敗をもたらすだけでなく、自国の独裁者のご機嫌をとる必要のために国際的な協力が低下してしまうからだ。トランプ氏とその新政権は、「プーチノミクス」を模倣することのコストを慎重に考えるべきだ。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
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