2018年は円が最弱通貨になるがドルも弱い

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2018年の相場見通しを確認する季節になりました(写真:kazukiatuko / PIXTA)

勤労感謝の日の11月23日、新宿で大型のセミナーが開催された。2018年の為替市場をテーマに、筆者を含めて3人の為替アナリストがパネルディスカッションに登壇。来年の最強通貨や最弱通貨について議論を交わした。

通貨の強弱ランキングについては、3人の間でいくつか違いがみられたが、興味深かったのは、強弱の差はあれど、3人そろって2018年の最弱通貨は円になると予想していたことだ。この見通しの前提になっているのは、「ゴルディロックス(適温経済)」だ。日米欧で緩やかな景気拡大と低インフレの環境が続くなか、金利の上昇も緩やかなペースにとどまり、世界的にリスク資産にマネーが向かう傾向が来年も続くというのが、3人共通の見解である。リスクオンが続くのであれば、新興国通貨などの高金利通貨が買われ、その反対で先進国通貨が売られるが、中でも最も金利の低い円が最弱になるという見立てだ。

米インフレ率がじわり上昇、年末1ドル120円へ


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この見立てが正しかったとしても、ドル円相場が一段と上昇するという結論には直結しない。前述したとおり、低金利のドルもリスクオンの際には高金利通貨に対して売られやすい。仮に、ドル売り圧力も同時に強まるようであれば、円安・ドル安の綱引きとなり、ドル円の大幅上昇は見込みにくいことになる。

2018年のドルの強弱感については、3人の間でも若干意見が異なっていた。カギとなるのは米国のインフレ動向だ。足下、ドル円相場が111円〜112円台前後で膠着しているのは、米国の期待インフレ率の低迷が背景にある。市場の期待インフレ率を示すブレークイーブン・インフレ率(BEI=利付国債の利回り-物価連動債の利回り)は、通常は物価に多大な影響をもたらす原油価格との相関性が高い。しかし、今年9月以降、石油輸出国機構(OPEC)による減産延長の協議に対する期待から原油価格が上昇したにもかかわらず、BEIは頭打ちとなり、直近ではむしろ小幅に低下している。これは、金融市場において、米国のインフレは今後も加速しないとの見方が根強いことを示しており、米国の長期金利低迷の要因となっている。


FOMC(米連邦公開市場委員会)メンバーによるインフレに対する見解にもここのところ若干変化がみられている。FRB(米連邦準備理事会)のイエレン議長は11月21日の講演で、「拙速な利上げはインフレ率を2%の目標未満にとどめてしまうリスクがある」と発言した。同議長が「インフレ率が目標の2%に戻るまで金融政策を据え置くのは賢明ではない」などと発言していた9月頃とは異なる見解だ。また、翌22日に公表されたFOMC議事要旨(10月31日〜11月1日開催分)では、メンバーの多くが近い将来に金利を引き上げる必要があると述べていた一方で、何人かは、物価の弱含みが長引いていることを不安視していたことも示された。

筆者は米国で潜在成長率を上回る経済成長が続くなか、GDPギャップの縮小とともに2018年は米国のインフレ率が遅まきながら緩やかに上昇するとみており、コアPCEデフレーター(個人消費支出に関わるインフレ率)は直近の前年比1.4%から、2018年末には2.0%まで伸び率が高まると予想している。これとともにドルも、高金利通貨に対しては弱いながらも、対円、対ユーロではじわりと上昇し、ドル円は2018年末で120円付近になると予想している。

FRBの利上げも、2018年は3回程度と緩やかなペースは変わらないとみており、リスクオンの地合いは来年いっぱい継続すると予想している。したがって、ドル円のレンジの下限は110円ちょうどを大幅に割り込む可能性も低いとみており、この見通しが正しければ、来年を通じてドル円のボラティリティは低水準にとどまりそうだ。

円売りのポジションが溜まりやすい点には注意

ただ、前述したパネルディスカッションでは、「円安シナリオは3人の見通しがそろったから、かえって要注意だ」という点でも意見が一致した。3人とも円が最弱通貨となるという点で一致したということは、それだけ円安になる条件がそろっているということだが、こうしたケースでは得てして相場が大きく反対に向かうリスクも伴う。

理由は、条件が揃っているだけに、同じ方向の持ち高が市場に溜まりやすいということである。このケースでいえば、円売りポジションは市場に蓄積しやすく、実際、すでにシカゴ通貨先物市場IMMの投機筋によるポジションをみれば11万4000枚と、大きく円売りに傾いている。これが何らかのショックで巻き戻された場合、円高は大きなマグニチュードを伴う。今年みられた大幅なユーロ高が好事例だ。

さて、我々の予想に反して、2018年に円が最強通貨になるとすれば、それは何が要因となるだろうか。あえてリスクシナリオを挙げるとすれば、以下のようなものになろう。

第1に、米国のインフレが予想をはるかに超えるペースで急激に加速し、FRBが金融引き締めを急がなければならないケースだ。「ゴルディロックス(適温経済)」はあくまで「低インフレ」が前提となっているが、「適温」ではなく「加熱」した場合、米国債券市場では長期国債のロングポジションの巻き戻しにより、長期金利が急騰することになるだろう。米国では税制改革法案の行方が話題となっているが、足下の米国経済は減税などなくても順調に拡大している。これに景気刺激策が加われば、かえって景気の過熱を招くリスクは否めない。

当社では、税制改革法案の効果は18年の成長率を0.3%ポイント押し上げる程度で、今のところ影響は限定的とみているが、今後注意すべきポイントである。金融引き締めによって米金利が上昇すれば、初動はドルが上昇する可能性が高いものの、その後も急速な利上げが続くようなら、米国株の急落によってむしろ円が急騰するだろう。

リスクオフが起きると円高は大幅に

第2には、これと反対に米国経済が予想より早いタイミングで減速し始めるケースだ。早期にFRBが金融の正常化のサイクルから、再び金融緩和にシフトしなければならない兆候があれば、ドル全面安となるなか、円高・ドル安が進行しよう。

3点目は政治リスクだ。トランプ大統領が、エルサレムをイスラエルの首都と認定し、テルアビブの米国大使館をエルサレムに移転する計画が明らかになったことで、先週は株価が大幅に下落するなど世界の金融市場に不透明感をもたらした。こうしたトランプ大統領の政策に対する不確実性、ロシア疑惑、中東情勢の不透明感、北朝鮮問題、欧州、ユーロ圏の足並みの乱れなど、世界の政治的な火種は枚挙にいとまがない。どれをとっても深刻化した場合には、リスクオフによる円高の進行が大幅なものになるだろう。

※女子アナリスト4人組、次回の掲載は27日です