社長になるのに“最も大切な資質”は何か

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社長の仕事はビジョンを掲げ、それを実現することだ。そのために必要な資質とは何だろうか。

社長はまず、どこへ向かうのかを決める判断の「軸」を持たなければならない。どうやっていくかを示す「戦略」を描けなければならない。そのうえ、腹落ちできる言葉を駆使し、周囲を「巻き込む」ことに長けていなければならない。

ロジックだけでは足りない。心を動かすコミュニケーション力、もっといえば、誰にでもわかるストーリー構築力が求められる。要約すれば以上のようになるだろう。

では、それらの資質をどうやって身に付けるのか。

私はNKK(現JFEスチール)を振り出しに、GE、LIXILというグローバル企業で長く人事担当を務めてきた。その経験からいえるのは、次のようなことだ。

社長の日常は決断の連続だ。必ずしも時間的猶予が十分にあるわけではない。その中で、誰からも命じられず、誰とも相談できないまま、最適の意思決定をしなければならない。

その域に達するには、若い頃から「自分が立つ!」という覚悟で前のめりに仕事に取り組んでいなければならない。いくら一生懸命にやりましたといっても、命じられたことや、与えられた仕事をその通りにこなしているうちはダメである。社長になりたいなら、「私の会社」「私のLIXIL」という強い当事者意識を持ち、ときに上司に意見しながら、失敗を恐れず判断力を磨いていくしかないのである。

総じて日本人は、この種の自己主張が苦手である。たとえば子育てひとつとっても、外国人とはずいぶん違う。中国人や韓国人、インド人であれば自分の子供に「一番になれ」「勝て」と教え込む。米国人なら「Be yourself」(自分の考えを持ちなさい)だ。対して日本人は「他人に迷惑をかけるな」「思いやりを持て」と、自分を抑える意識を伝える。こうして育つと、「いい人」にはなれても「強い人」にはなれない。

もちろん、社会の成員として「いい人」が増えるのは素晴らしいことだ。しかし、変化の激しい時代に大組織を率いていくには、日本人一般が思っている以上に「強さ」という要素が重要になる。

■正論だけでは人は付いてこない

たとえばLIXILグループ前社長の藤森義明は、自分とは異なる主張を持ち、しばしば意見が対立するような人材を好んで周囲に置く。GEのCEOだったジャック・ウェルチや、現CEOのジェフ・イメルトもそうである。イエスマンを重用しても、競争には勝てないと知っているからだ。

GEの会議で、インド出身の同僚と初めて激しく議論したときのことは忘れられない。私のプレゼンに正反対の意見を厳しい調子でぶつけてくる。この男は私のことを嫌いなんじゃないかと落ち込んだものだが、会議が終わったら、とたんに笑顔で語りかけてきた。

会社は仲良しクラブではなく、あくまでもビジネスの場。互いに馴れ合うのではなく、真剣に持論をぶつけ合うべきなのだ。

そして衆議一決したら、今度は「ビジネスに勝つ」という大目標をめざし、全員一丸となって戦い抜く。これをやり遂げる強さが、これからの社長には必要なのだ。

とはいっても、会社は多くの人で成り立っている。とくに当社のようなメーカーでは、特別なエリートではない普通の社員たちを納得させたうえで、一つの方向へ引っ張っていかなければならない。すると、正論を吐き、ハードワークを強いる「強さ」だけでは人は付いてこない。

だから社長には「チャーム」があることも大切だ。ゆきすぎるほどの情熱、スーパーな知性があるのに、人間的な魅力にあふれ、ほほえましい可愛げもある。そんな人がリーダーになると私は思うのである。

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LIXILグループ副社長 八木洋介(やぎ・ようすけ)
1955年、京都府生まれ。80年京都大学卒業後、NKK入社。99〜2012年GE。12年4月から現職。著書に『戦略人事のビジョン』がある。
 

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(LIXILグループ副社長 八木洋介 構成=高井尚之 撮影=的野弘路)