ファイナンシャルプランナー(FP)として日ごろ、さまざまな人から相談を受けていると多くの方が勘違いされていることがあります。それは「大きな家や高級車に乗っているから」といって、その人が「富裕層」とは限らないということです。

借金で成り立つ富裕層の「良い生活」

 富裕層というと、単純に「お金持ち」を指す印象がありますが、肝心なのは「資産と負債のバランス」です。たとえば、Aさんは夫婦共に一流企業に勤務し夫の年収は1000万円、妻は800万円。子ども2人は有名私立校に通い、高級住宅地に一軒家を所有、車も海外メーカーの高級車に乗っています。

 傍から見れば良い生活をしていますが、実際のところ「資産」と「負債」はどうなっているでしょうか。まずは資産から見ていきます。

【資産】

家=購入時は8000万円、中古で売った場合は5500万円(築10年)
車=購入時は750万円、中古で売った場合は300万円
預貯金=700万円
証券(株式)/債券(国債、社債など)/保険(貯蓄性のある商品の返戻金)=200万円
総資産=6700万円

 次に負債です。実際、家も車もローン、つまり借金で購入しているため、以下のようになります。

【負債】

家に関する負債=6500万円
車に関する負債=500万円
総負債=7000万円

 資産から負債を差し引いた金額はマイナス300万円で、仮に「すべてを清算」した場合、借金しか残りません。実際は仕事も収入も続くため、生活が破綻する可能性は低いのですが、厳しい見方をすれば「借金で良い生活をしているだけ」とも言えます。

子どもは公立、車は中古車だが…

 一方、Aさんと同じ家族構成であるBさんのケースはこうです。年収は夫婦合わせて500万円、子ども2人は公立学校に通っています。家は賃貸で家賃7万円、150万円の中古車を現金で一括購入、若い頃から堅実に貯金と投資をしており、預貯金や証券などで計2000万円持っています。

 Bさんの資産は車50万円(中古で売った場合の価値)、預貯金と証券などの2000万円で計2050万円。しかし負債はゼロであり、資産から負債を差し引いても2050万円という大きな金額が残る計算です。

 やや極端な対比ですが、この両者の場合、Bさんの方が圧倒的に「富裕層」ということになります。FPの分析では、まず「資産」と「負債」を整理し、その差である「純資産」がプラスかマイナスかを見ます。次に重要なのが年間の支出の内訳。単純にいえば、1年間の給与のうち「どれくらい使っているか(生活費)」「どれくらい貯めているか(貯金/投資)」です。

 今回の例では、「一見お金持ち」のAさんには家や車のローン、子どもの学費があり、基本的な生活費も高いため、貯金はほとんどできないでしょう。一方、「実はお金持ち」のBさんは家賃や生活費が年400万円、貯金は年100万円程度とします。Aさんはそもそも総資産がマイナスであり、万が一の事態が起きれば、翌日には生活が破綻しますが、Bさんは生活費400万円に対して純資産が2050万円と大幅なプラス。何もしなくても5年間は同じ生活ができる計算です。

スポーツ選手や芸能人は富裕層でない

 富裕層の定義はFPによって見解が異なりますが、筆者としては、年間生活費の「5倍以上の純資産」を持つ方が真の富裕層だと考えます。「たとえ年収1億円で派手な生活をしていても、収入が途絶えた途端に借金しか残らない」。プロスポーツ選手や芸能人に多い例ですが、このような人は富裕層ではないのです。

 実際のところ、FPの現場では、先ほどのAさんやBさんのような人もたくさん見かけます。同じ会社に勤務していても、出世頭で高い地位にいるのがAさんタイプ、仕事を淡々とこなしていますが、社内の評価は低いのがBさんタイプということが多いのです。

 人よりも良い家、良い車、良い暮らし――。分かりやすい基準で「富裕層」に分類された人の実際はガタガタで、一見さえない人が「真の富裕層」であることは珍しくありません。「人は見かけによらない」。多くの家計を見ているとそう実感するのです。

(株式会社あおばコンサルティング代表取締役 加藤圭祐)