メディア複合企業のウォルト・ディズニー・カンパニー(The Walt Disney Company)は、広告利用にぴったりなプレミアムなオンラインコンテンツを所有しているが、これまでそれを十分に活用しようとしてこなかった。しかしディズニーは現在、デジタル広告予算獲得のために最大限の努力を払っている。営業チームの再編や、買収したメーカースタジオ(Maker Studios)によるインフルエンサー事業の整理、独自広告ネットワークの開設といったことを行っているのだ。

独自の広告ネットワーク



ディズニーのCM担当幹部は2017年5月から、広告主やエージェンシーに対して、「ディズニー・デジタル・ネットワーク(Disney Digital Network:以下DDN)」を売り込んでいる。自社独自の広告ネットワーク、インフルエンサーとの提携、ブランデッドコンテンツ契約のいずれかで購入可能なオンライン資産すべてを組み合わせたものだ。

DDNが5月にスタートして以来、何度も会合が開かれており、同社は、コンシューマープロダクツ&インタラクティブ事業のなかでも、小さいが利益の多い広告ビジネスを育てようとしている。2016年、同部門の売上総額に対して、広告が占める割合は2%(1億3000万ドル[約146億円])にとどまっていた。

ディズニー独自の広告ネットワークの開設は、同社が広告予算獲得を目指していることを何よりも明白に示している。パンゲア・アライアンス(Pangaea Alliance)のようなパブリッシャーアライアンスと同様に、ディズニーはマーケターから、GoogleやFacebookの規模をもつ、プレミアムでもっと透明性の高いネットワークと見なしてほしいと考えている。

独自の広告ネットワークを運営することで、ディズニーは、自社データを管理し、サードパーティーへの依存度を下げ、何より、サードパーティーに支払う料金を減らすことができる。DDNは、従来の広告ネットワークのような機能を果たし、ディズニーとバイヤーの料金交渉が済んだら、広告の掲載や最適化、レポーティングに対処する。DDNで販売されるものの多くは、ディズニーのアプリに載せる広告と、ソーシャルネットワーク、特にYouTubeに掲載される同社コンテンツの前に流れるプレロール動画だ。

DDNにおける強みと弱み



ディズニーでヨーロッパ・中東・アフリカのデジタル・パートナーシップを担当するバイスプレジデント、ロビー・デューク氏によれば、YouTubeは、DDNがブランドのために生成することができるマネタイズ可能な動画視聴4億回のうち、かなりの部分を占めている。ディスプレイ広告は、販売されるもののなかで「割合が小さい」と同氏は付け加えた。

デューク氏は、ディズニー広告主にとって、オンラインにおけるオーディエンスのターゲティングは、ハイパーターゲティングというよりは「文脈的」になると語る。つまり、ディズニーが販売する広告は、少なくとも当初は、ページコンテンツとの関連性に基づいてターゲティングが行われるということだ。だがのちのちは、もっと絞り込んだターゲティングに立ち返る可能性がある、とデューク氏は言う。

一部のメディア観測筋からは、ディズニーはこれまで用心深すぎ、データターゲティングが不足していると感じられるとの声も上がっている。デューク氏によると、さしあたりは、CMチームが広告主のキャンペーン計画を手助けする際に、「特定のフランチャイズに関連する特定のオーディエンスに注目する」ことに力を注ぐという。

だが、ソフトウェア企業パブマティック(PubMatic)のヨーロッパ・中東・アフリカ担当バイスプレジデントを務めるビル・スワンソン氏は、自社で開発された技術が透明性への解決策であるとは限らない、と指摘する。パブマティックは、自社の独自技術を開発する経済的余裕がないパブリッシャーと提携し、利益を上げている。「マーケターは、不適切なコンテンツの隣に広告が表示される問題については、不安を和らげるかもしれないが、詐欺についてはどうだろうか? もっともプレミアムなパブリッシャーでさえ、いまは、ドメインのスプーフィング(なりすまし)の被害に遭っている。ドメイン・スプーフィングは、認証技術を利用すれば軽減できる問題だ」と、スワンソン氏は言う。

市場のトレンドが後押し



ディズニーは、インフルエンサーが広告主を惹き付けることも期待しているが、デューク氏は、乱戦模様の市場でインフルエンサー事業を構築する難しさを認めた。ディズニーは、2014年にメーカースタジオを5億ドル(約564億円)超で買収して以来、この部門を成長させようと苦闘してきた。2017年に入って、メーカースタジオを合理化したあと、コンシューマープロダクツ&インタラクティブメディア部門に組み入れた。

メーカースタジオを、独立した部門から、デジタル予算の獲得を目指してもっと広範な売り込みを行う部門に組み入れることで、失った金の一部をディズニーが回収するのに役立つと期待している。ディズニーは、メーカースタジオのインフルエンサーたちをブランドに売り込むのに加えて、インフルエンサーたちがテレビ番組に出演したり、リブートされたオンライン版「ミッキーマウス・クラブ」シリーズに参加したりする機会を提供していく。

ディズニーのオンライン広告進出は、これまでなかなか本格化しなかった。メーカースタジオの買収以後、オンライン事業を開始するべく奮闘してきたが、現在は、ブランドセーフティ危機が、信頼できるパブリッシャーという立場を固めるのに役立つことを期待している。

ディズニーのデューク氏はこう述べる。「広告主と話していると、ブランドセーフティがよく話題に上る。我々の業界でこれから輝く企業は、コンテンツに立脚している企業なのだ」。

Seb Joseph(原文 / 訳:ガリレオ)
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