【今さら聞けない】サスペンションの役割って何?

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もともとは馬車の時代にボディを守るべく緩衝の役目で装備された

走りを決めるのは、やはり最終的にはサスペンションです。乗り味などと言ったら、やはりダンパーの動きが大きく左右しますね。そのサスペンションの役割を考えてみましょう。

そもそもサスペンションが生れた背景は、ボディを守るためでした。デコボコの道なき道を走ると、その衝撃がボディに入って破損してしまうのです。そうしたトラブルを防ぐため、緩衝材としてサスペンションが生れたのです。その時代はまだクルマではなく、馬車だったわけですが……。

トラックのサスペンションは、現在もそうした思想で作られていると言っていいでしょう。シャーシは強くなりましたが荷物を破損しては元も子もありません。しかし現代の一般的なクルマのサスペンションは、違った役割が求められます。それはクルマの性能が向上し、タイヤの性能が要求されるようになったからです。

タイヤは荷重が変化するとグリップ力が変化します。荷重が抜ける、というような表現もありますね。しっかりと荷重がかかっていることが、タイヤの性能を引き出すことになるんです。その荷重が安定するためには、基本的にボディの変位が少ないということが求められるわけです。サスペンションがその役割を果たすことになるんです。

路面からの衝撃を受けるとスプリングは縮み、入力と釣り合ったとこまで縮んだら、次に元の長さに戻ろうと伸びていきます。しかし実際には反動で伸びすぎて、再び元の長さに戻るために縮みます。スプリングは収縮を繰り返しながら、元の長さに戻ります。その特性を抑えるのがダンパーの役割です。スプリングの収縮に抵抗することで、元の長さに収まるまでの伸縮回数を少なくします。

スプリングとダンパーとスタビライザーの協調で挙動の特性が決まる

パーツをひとつずつ機能で説明しましょう。スプリングはロール角やピッチ角の最大値を決めます。ダンパーは、その最大値までの時間を決めます。スタビライザーは左右のサスペンションの動きが違う時に、揃えるように機能します。つまりロールを抑えるわけですね。この3つのハーモニーがクルマの走り味になります。

しかしサスペンションといえば「乗り心地」というキーワードを忘れるわけにはいきませんね。発展途上国では道路整備が追い付いていないので、どうしてもソフトな足回りが好まれます。デコボコ道を走るには、それが必要なんですね。そして世界最高水準の舗装技術をもっている日本も、そういうフワフワなサスペンションが「良い乗り心地」だと思っている人が多いんですね。

フワフワにするとボディの変位量が大きくなります。これを「バネ上が落ち着かない」と言ったりします。それは結果として荷重が安定せず、タイヤの性能を生かしきれません。重心が高いほど変位量を少なくしたいので、スプリングは硬くする必要があります。しかしミニバンのサスペンションはフワフワが多いですね。物理的には考えられないことです。

タイヤの性能を生かし切れないというのは、何もサーキットのコーナリング性能のことを言っているわけではありません。急ブレーキを踏まなければならない、ダブルレーンチェンジのような動作で緊急回避しなければならない、コーナーの先でブレーキングしなければならない、といった安全に関わることなのです。とくにミニバンのような重心の高いクルマだと、横転というアクシデントにつながるのです。

大事なのは人間です。フワフワの乗り心地でクルマ酔いする、というのは論外です。優れた乗り心地というのは人間の知覚や感覚にマッチしたものでなければなりません。クルマをドライバーがコントロールする以上、ドライバーに正しい情報を伝え続ける必要があります。まるで宙を飛んでいるような感触ではダメなんです。短いガツガツとした振動は伝えながら、ドライバーの姿勢を安定させるのが良い乗り心地なのです。

日本人の感覚での良い乗り心地は特殊なので、理解していただけないかもしれません。クルマはソファーでもベッドでもないんですね。そのあたりの感覚がレベルアップすれば、日本車はもっと魅力的で安全なものになると思うのですけども……。

(文:岡村神弥)