GPIFは国民年金と厚生年金の積立金を運用している

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■株式相場の低迷で損失は5兆円に!?

国民年金と厚生年金の積立金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が多額の損失を出しているようだ。

GPIFの運用額は約1400兆円(2015年第3四半期)。損失の背景には、安倍政権が14年10月に運用比率を見直して、日本株比率を12%から25%に引き上げたことがある。このため日経平均株価は2万円台まで上昇したが、その後の株価低迷で損失が拡大した。

15年度の損失は約5兆円ともいわれ、しかも例年7月前半に行う運用成績の公表を7月29日に先送りしたことから、国民の間に不安が広がっている。

われわれの年金は、いったいどうなってしまうのか?

公表を先送りしたのは、もちろん7月の参院選対策だ。そして、公表後にも、政府サイドが「長期運用の中では単年度の運用損は問題にならない」と説明するのは目に見えている。

だが、納得してはいけない。この運用損が年金“改悪”の引き金になる可能性もあるからだ。

公的年金の積立金は、年金支払いに充てる財源の一つだ。

公的年金は、受け取った保険料をそのまま年金として支払う「賦課方式」になっている。その年に受け取った保険料が支払った年金より多ければ、余った額が積立金になる。

その残高が大きく伸びたのはバブル経済の時代だ。当時は金利が7〜8%もあり、積立金の運用益で年金の将来はバラ色と考えられていた。だが、バブルが弾けて状況は一変。想定以上の少子高齢化の進展とあいまって、年金財政は悪化の一途をたどる。

この積立金は、1年分を残して順次、年金の支払いに充てられる。運用で損が出れば、枯渇する時期が早まるはずだ。

年金制度を維持するため、すでに何度も改正が行われてきた。1994年、2000年には年金の支給開始が段階的に60歳から65歳に引き上げられた。04年には保険料の段階的引き上げに加えて「マクロ経済スライド」も導入されている。

この「マクロ経済スライド」は、年金額が気づかないうちに目減りしていく“悪魔のしくみ”だ。

年金額は賃金・物価の変動に応じて決まるが、「マクロ経済スライド」では、このときに一定の調整率(現在は0.9%)を引いて年金額を計算する。たとえば賃金・物価が2%上昇しても、年金額は、0.9%を引いた1.1%しか上がらない。

現在のところ、賃金・物価の下落時にはこの調整を行わないとされている。だが、年金財政のさらなる悪化を受けて、政府は賃金・物価下落時にも調整率を差し引くマイナススライドを導入するのではないか。

さらに、年金支給開始を65歳から67歳に引き上げることも考えられる。次の年金改正は19年で、日本中の目がオリンピックに向いているはずだ。このタイミングが危ない。

では、どれくらいの減額を覚悟すべきか。現在40代の人なら、年金受給は67歳からと思ったほうがいいだろう。受給額も2割は下がると考えたい。現在、モデル世帯の年金額は月約22万円。ここから2割下がるとすれば、年金額は月17万〜18万円程度だろう。

われわれは、今まで以上に努力して、年金不足に備える必要性に迫られている。毎年の積立額に応じて税金が安くなる確定拠出年金など、優遇税制を活用して、着実に老後資金を増やしていこう。

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北村庄吾(きたむら・しょうご)
年金博士”。社会保険労務士。1961年生まれ。中央大学法学部卒。法律系国家資格者の総合事務所ブレインコンサルティングオフィス代表。著書『定年前後のお金の手続き』など。
 

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(有山典子=構成 永井 浩=撮影)