海運3社はコンテナ事業の統合に関する記者会見を開いた。左から会社のあいうえお順で、川崎汽船の村上英三社長、商船三井の池田潤一郎社長、日本郵船の内藤忠顕社長と並んだ(写真:共同通信)
海運3社はコンテナ事業の統合に関する記者会見を開いた。左から会社のあいうえお順で、川崎汽船の村上英三社長、商船三井の池田潤一郎社長、日本郵船の内藤忠顕社長と並んだ(写真:共同通信)

 「歴史的な転換点になる」

 10月31日、商船三井の池田潤一郎社長は記者会見で胸を張った。 

 日本郵船と商船三井、川崎汽船の海運3社は同日、コンテナ事業を統合すると発表した。3社で約3000億円を出資して新会社を設立し、売上高は単純な合算でおよそ2兆円となる。

 船隊規模は合計およそ140万TEU(20フィートコンテナ換算)になり、スケールメリットを働かせることで、年間1100億円の統合効果を見込む。

 海運のコンテナ事業は歴史的に再編を繰り返してきた。戦後はゼロからスタートして10社以上が立ち上がり、その後の不況で1964年に中核6社に絞られた。1999年に3社体制になり、今回の統合で2017年7月から1社に減る。

 これまで海運業界を担当する国内証券アナリストは、「資本効率としてはコンテナ事業を統合した方がいい」と指摘していたが、一方で、「系列の財閥や企業文化が違うから現実的には難しい」とみていた。また、食品や日用品、製品の部材などを運ぶコンテナ事業は、海運各社の主力事業であり、手放しにくい側面があった。

 それでも統合に踏み切ったのは、各社が単独でコンテナ事業を立て直すシナリオがもはや描けなくなったからだ。

リーマンショック後の半値に落ち込んだ船賃

 この数年、コンテナ船の市況は歴史的な水準まで低迷していた。足元の船賃はリーマンショック後の高値に比べて半値の水準になっている。

 市況が改善した際に、海運各社が船を増やしたために、需要に比べて供給過多になった。市況低迷の長期化は、海運業界を大きく揺さぶっている。

 8月には韓国の海運最大手、韓進海運がコンテナ事業の収益悪化などから経営破たんに追い込まれた。

 10月31日に発表した3社の決算でも、市況低迷の影響は顕著に表れた。いずれも2017年3月期の業績見通しを下方修正。コンテナ事業が大幅赤字が、収益悪化の最大の要因になった。

 ただ、統合してもコンテナ市況が回復する訳ではない。コンテナ市場の中で、日本の海運3社の世界シェアの順位は11位、14位、16位だ。

 統合しても世界6位のシェアは約7%で、マーケットに影響を与えるほどのインパクトはない。また、コスト競争力を高めたとしても、市況低迷の影響は避けられず、苦しい状況が続くと予想される。

商船三井のコンテナ船。市況が急速に悪化している
商船三井のコンテナ船。市況が急速に悪化している

今後も貿易の伸び悩みは続く見込み

 市況の低迷は、海運各社の過剰投資だけでは説明がつかない部分がある。GDPが成長しているにもかかわらず、世界の貿易が伸び悩んでいるのだ。

2012年以降、GDPと貿易の相関関係に異変が出ている
2012年以降、GDPと貿易の相関関係に異変が出ている
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 これまでは、GDPが世界的規模で成長すれば、それを上回る比率で世界貿易が伸びるという相関関係があった。

 それは数字にはっきりと表れている。日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査では、世界の実質GDP成長率を分母、実質貿易の伸び率を分子とした場合、長い間その倍率は1~3の範囲で推移していた。例えば、GDP成長率が3%だった場合、貿易伸び率は3~9%だった。

 だが、2012年からこの相関関係に異変が生じている。2012年~2015年まで倍率は0.1~0.8にとどまっている。つまり、貿易の伸び率がGDP成長率を下回っているのだ

 貿易の専門家たちはこの現象を「スロートレード」と呼ぶ。10月20日には、日本銀行が「スロー・トレード:世界貿易量の伸び率鈍化」というリポートを公表した。

 海運各社は従来のように貿易需要が伸びることを見越して船を増やしたが、想定より需要が伸びず、供給過剰に陥った。世界貿易の異変が、海運再編を促したと言っても過言ではない。

 スロートレードについては、様々な要因が挙げられている。1つは製造業の地産地消が進んでいることだ。

 例えば、中国では産業のすそ野が広がり、自動車など組み立て産業における部品の現地調達率が高まっている。ジェトロの調査によると、中国進出の日系企業による原材料・部品の現地調達率は、2005年の53.5%から2015年には64.7%に高まっている。

 特にスロートレードは世界経済の成長ドライバーである新興国で顕著だ。2005年~2015年におけるGDPと貿易の相関関係の倍率は、先進国が1.5倍なのに対して、新興国は0.6倍である。

 2つ目の要因は、保護主義の傾向が強まっている点だ。自由貿易協定の締結が進む一方で、貿易制限措置の発動が増えている。

 世界貿易機関(WTO)の調査によると2015年10月から2016年5月までの期間で、合計145件の貿易制限措置が発動されたという。これはリーマンショック後で最も多い水準に達しているとWTOは警鐘を鳴らしている。

 さらに、今後は先進国でも保護主義が台頭する可能性がある。米大統領選を戦う民主党のクリントン候補、共和党のトランプ候補が共に環太平洋経済連携協定(TPP)に反対している。

 WTOのロベルト・アゼベド事務局長は経済成長と貿易との相関関係について、今後数年は元の水準に戻らないとの見通しを示している。日本の海運3社のコンテナ事業の統合は、世界のモノの流れが大きく変わっていることを象徴している。

■変更履歴
1ページ本文中
「140TEU」とあったのは
「140万TEU」
の誤りでした。お詫びして訂正いたします。
本文は既に修正済みです。 [2016/11/01 11:00]
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