サマーレッスン:宮本ひかり セブンデイズルーム - レビュー

はっきり言って赤点だ

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最初は「サマーレッスン: 宮本ひかり セブンデイズルーム」(サマーレッスン)のレビューを宮本ひかりに宛てた手紙として書くつもりだった。だが、2周してもまだ彼女に手紙を書けるほどの間柄になっていない。そもそも、彼女は本当の女の子ではない。わかりきったことだが、わかってしまったらこの体験は成立しない。

僕が一週間という短い間、彼女の家庭教師に任命されたのがついこの間のように思える(これ、皮肉)。だが、僕を雇った宮本ひかりの父親に当たるバンダイナムコの原田勝弘さんは、僕が本気で授業することを最初から期待していなかったように思う。宮本ひかり本人でさえ、僕が所詮は下心だけでやってきたと思っているみたいだった。下心は確かにあった。だが、彼女と過ごした時間を通して、(少なくとも知的な意味では)僕の下心が満たされなかっただけでなく、それ以外の収穫もなかった。彼女と接するのが退屈だったのもあるが、あまりにも短すぎて、あっさりしていたのが一番の原因だ。

最初にPSVRを装着して、彼女が僕の目の前に立ったときは確かに本物の女子高生と接している気持ちになった。360度に見渡せる彼女の――非常に女子力の高い――部屋も、極めて現実的な空間に思えた。

PSVRはPCのVRデバイスと比較して解像度が低いのかもしれないが、そこは演出で巧くカバーしていると思った。「彼女は本当に、そこにいる」という本作のキャッチコピーは、実在している錯覚を与えているという意味では嘘ではない。だが、逆に言えば、たったそれだけの体験で、それ以外に得られるものはない。VRの凄まじい没入感を伝えるための体験としては素晴らしい作品だが、30分たらずで満足してしまうゲームは2,759円(税別)の製品としては成り立たない。

このゲームの核となる部分は実在感抜群の女子高生とのインタラクションにある(はず)。宮本ひかりには「根性」や「頭の回転」といったステータスがあり、プレイヤーはその日の授業内容を決めることで何を伸ばすかを決める。休憩時間に発生する会話の選択次第でも(アイコンを見ることで選択)、伸びるステータスが変わってくる。プレイヤーの指導方針のおかげで勉強がはかどれば、ステータスが上がるだけでなく、特別なシーンの褒美もある。同じイヤホンで音楽を聴いたり、肩からゴミをとってもらったりと、宮本ひかりと接しながらにやにやしなかったといえば嘘になる。だが、指導方針を決めるシステムと会話を振るシステムのどちらもあまりにも薄っぺらすぎるし、どうすればよりうまくいくかも明白でない。しかも、実際に授業を行う時間はほぼすべてカットされ、プレイできるのは休憩時間のみである。僕はたとえ短い時間でも、宮本ひかりに本当に何かを教え、彼女と楽しく会話がしたかった。だが、まだ距離も縮めていないのに、2日目にいきなり「学校の授業よりも先生の授業の方が好き」と言ってくる彼女を信じることができなかった。

サマーレッスンにおける一日は長くて5分程度だ。30秒より長い会話は皆無に等しい。ゆっくりプレイしても、ゲーム全体は30分で終わってしまう。価格に不相応な短いプレイ時間が少なくとも丁寧に作り込まれているのかと言うと、そうではない。7日間にわたって、宮本ひかりの部屋には何の変化もない。くまさんのぬいぐるみはベッドの上に毎日まったく同じ位置に置かれている。ゴミ箱にはいつも同じものが入っている。時計は常に12時15分を指している。壁にかかった鞄と帽子も使った形跡がない。布団が畳まれていない日が一日あってもいいと思うけどそれもない。プレイすればするほど、僕は気づいてしまった。この部屋が偽りの空間で、3Dの静止画でしかないことに。まるで一昔前の格ゲーのステージのバックグラウンドみたいに感じられたのも、原田さんの経歴を思えば偶然ではない。宮本ひかりとの時間が充実していれば、それくらいを許せたかもしれないが、部屋の持ち主も残念ながら本物の女の子ではない。

僕はたとえ少しわざとらしくても、人間とのコミュニケーションが楽しめるゲームに期待していた。確かにあった下心も、本当に宮本ひかりを知ることができればより刺激されたはずだ。だが、サマーレッスンは青春期の男の子の抑えきれない性欲のためにあり、知的好奇心を持つ大人を満足させる要素はまるでない。

それでもときどき、宮本ひかりが本物の人間に見えるときがあった。彼女は休憩時間に一度部屋を出ては、しばらくしてからチョコレートを手に戻ってきた。3Dサウンドで聞こえてくるドアを閉める音や、台所でお母さんとの会話の距離が極めてリアルに僕の耳に届いた。部屋に戻ってくると歩きながらチョコレートを一つ口に含み、机の上においてから「先生も食べる?」と、半ば義務的に聞いてきた。

「先生も暑くない?」と言ってエアコンをつけるようなさり気ない場面も人間味に溢れ、彼女はすぐに届きそうに思えた。だが、次の瞬間、彼女は恐ろしく近い距離で僕を見つめ、「今度、先生をどこかに連れてってあげるから」と女子高生が軽々とおっさんの家庭教師に言うとは到底思えない発言をし、「今日はこんなところかな」と、それだけで一日の終わりを宣言してしまう。信憑性がないだけでなく、そもそもまともに会話する場面がない。

僕がもう一度宮本ひかりと7日間を過ごすことにしたのは、彼女に会いたかったからではない。レビューを書く必要がなければ、僕はさっさと家庭教師をやめて、とっくに転職していたはずだ。だが、もう一度プレイしても、価値のあるリプレイ性を発見することはできなかった。「学校」「友達」「生活」「部活」などから選択できる話題は一週間に1回までのようで、もう一度プレイしても基本的には同じ話題を振るしかない。レッスン内容も何もかもを1周目と違う形で進めたが、新しく見られたシーンは1つだけだった。さすがにもう少しあるみたいだけど、数が知れていることは間違いない。そして、2周目にプレイするとアラがより目立つ。例えば、宮本ひかりが一生懸命に何かを書いている。ノートを見てみると縦書きだが、彼女はペンを左右に動かしている。オープンワールドならそれくらいは仕方ないが、基本的に一つの空間で展開される30分程度の体験にそのような矛盾があってはいけず、制作者の本気さえ疑ってしまう。ゲームをクリアすると、次のプレイで宮本ひかりに着せられる新しいコスチュームが手に入る。だが、コスチュームを一度選択するとクリアまで変更できない。違うコスチュームを着せるくらいしかやることがないのに、それさえも自由にできない。そもそも、(制服ならともかく)一人の人間が毎日同じ服を着るのは不自然ではないか。彼女がランダムに衣装を変えるようになっていれば、よりリアルに感じられたはずだ。2周目のプレイで僕は黒Tシャツに半ズボンという普段着を選んだが、彼女は学校の鞄を手に部屋に入ってきた。まさか、その恰好で学校へ行ったとは思えない。本当にどこまでもお粗末で、ため息が漏れてしまう。

長所

  • VRの可能性を感じさせる

短所

  • 宮本ひかりに信憑性がない
  • 薄っぺらいゲーム性
  • 30分という、価格に不相応な短さ
  • リプレイ性が低い

総評

ストーリー展開が皆無に近く、キャラクター描写も非常に浅薄な本作は、過去の2作品と同様、「サマーレッスン」の決まったフォーマットを気に入っている人のために、一行でその全てを表せるミニドラマを提供する。「サマーレッスン・フォーマット」では、必然的にコンテンツ量が少なく、2980円という価格に見合う商品にはなり得ない。今後の「サマーレッスン」は、本当にそのフォーマットが好きでたまらない人にとってのみ、生きているフランチャイズに見える。いずれにしても、これからは新たに「サマーレッスン」に期待すべきことはないだろう。

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「サマーレッスン: 宮本ひかり セブンデイズルーム」レビュー

4.9
Bad
「サマーレッスン:新城ちさと 七曜のエチュード」は以前の2作品同様、完結したフォーマットにはめ込まれた、とってもとっても小さくて浅いドラマだ。
サマーレッスン:宮本ひかり セブンデイズルーム
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