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●接続料とは何か
現在総務省が進めているモバイルサービスの提供条件・端末に関するフォローアップ会合」では、MVNOがキャリアから回線を利用する際に支払う「接続料」の見直しが進められている。見直しによって影響を受けるのは一体誰なのだろうか。

○フォローアップ会合のテーマの1つとなった接続料

近年、携帯電話業界の商習慣見直しに積極的に取り組んでいる総務省。端末と料金を一体で提供する大手キャリアの販売手法を問題視し、昨年5月にはSIMロック解除の義務化を断行。さらに今年4月には「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」を打ち出し、大手キャリアに相次いで行政指導を実施することで、スマートフォンの実質0円販売が事実上できなくなるなどの大きな変化が起きている。

一方で、総務省は通信料金の競争を加速するため、MVNOの競争力強化に向けた取り組みを積極化している。そうした総務省の後押しもあって、大手キャリアからMVNOに移行するユーザーは増えているが、それでも携帯電話市場全体におけるMVNOのシェアは今なお数パーセント程度に過ぎない。

そこで総務省は、MVNOの競争力をより強化しつつ、ユーザーの選択肢を増やすため、大手キャリアに対して一層の改善を求める方針のようだ。そしてその議論の場となっているのが、10月から実施されている「モバイルサービスの提供条件・端末に関するフォローアップ会合」である。

この会合では、SIMロック解除義務化や4月のガイドラインなど、一連の措置の成果を振り返り、市場競争の加速に向けた新しい施策に関する議論が進められている。この会合で繰り広げられている議論を見るに、大きなテーマの1つとなっているのは、SIMロック解除と端末購入補助の適正化に関するフォローアップなのだが、もう1つのテーマとなっているのが「接続料」である。

接続料とは、要するにMVNOがキャリアから回線を借りる際に支払う料金のこと。特にデータ通信の接続料に関しては、NTTドコモの場合2009年には月額746万円であったのが、年々大幅な低廉化が進められており、2014年には79万円と、10分の1近くにまで下落。そのことが、規模の小さい企業がMVNOとして通信サービスを提供しやすくなった要因へとつながっている。

●接続料の差を生むのは何か
○接続料の差を生み出している「β」の算定方法

では今回、何が問題視されているのかというと、接続料が最も安いNTTドコモと、最も高いソフトバンクとの間で約1.5倍もの料金差があることである。MVNOは熾烈な価格競争を繰り広げていることから、できる限り接続料が安いキャリアから回線を借りる傾向にある。それゆえ現在、自由度の高い「レイヤー2接続」で回線を借りているMVNOは、大半がNTTドコモの回線を選択しているのだ。

一方で、KDDIの回線を選んでいるのはUQコミュニケーションズやケイ・オプティコム、インターネットイニシアティブ(IIJ)など少数、ソフトバンクの回線を選んでいるのは飛騨高山ケーブルネットワークなど、一層少数のMVNOに限られている。キャリアによってこれだけ大きな差が生まれているのには、接続料の差が大きく影響していることから、総務省は接続料の格差を縮めるべく議論を進めているわけだ。

フォローアップ会合と並行して進められている「モバイル接続料の自己資本利益率の算定に関するワーキングチーム」での議論によると、接続料に大きな差が生まれている理由は、接続料を算出する際に必要な、自己資本利益率を計算するのに用いられる「β」という値が影響しているとのこと。このβの計算方法は各キャリアによって異なっており、その違いが接続料の大きな差としてあらわれてきているようだ。

NTTドコモは自社の株価などを、NTTドコモが上場した1998年から計測して算出。KDDIもNTTドコモの株価などを、同じ期間、自社の財務リスクを取り入れる形で算出している。だがソフトバンクは、持ち株会社であるソフトバンクグループの株価などを、同社が携帯電話事業への参入を表明した2004年から計測して算出している。

各社共に異なる算出方法を用いているのには、KDDIやソフトバンクは固定通信事業やコンテンツ・サービス事業を展開するなど、純粋に携帯電話事業のみを展開する企業が存在しないことが大きく影響しているようだ。NTTドコモが最も携帯電話専業に近い事業者といえるが、同社も最近では生活系サービスに力を入れているため、純粋な携帯電話事業者というわけではない。

●ソフトバンクのMVNOが増える?
○料金差の縮小でソフトバンクのMVNOは増えるか

そうした現状を踏まえながら、ワーキングチームでは構成員らが議論を進めている。そして第2回の会合では、現状やはりNTTドコモが、最も携帯電話事業が占める比率が高いことから、当面はNTTドコモの株価をベースにβを算出するのが妥当という流れとなったようだ。

また計測機関に関しては、年数が長いと現在の市況が反映されないことから、3〜5年程度の期間で計測するのが妥当という方向性が見えてきている。最終的にはそれらの方法でβを算出した結果を確認し、妥当性を検証した上で結論を打ち出すものと見られる。

今回の接続料見直し議論によって、特に大きく影響を受けるのは、やはり接続料が最も高いソフトバンクであろう。先にも触れた通り、ソフトバンクの回線を用いたMVNOは非常に少ないが、それはある意味、接続料が最も高いことを理由に、MVNOへの回線貸し出しに消極的な姿勢をとっていたが故ともいえる。ソフトバンクは昨年6月に、MVNOを推進するための子会社「ソフトバンクパートナーズ」を設立しているが、特にコンシューマー向けの事業に関しては、目立つ取り組みがあまり出てきていない。

ソフトバンクは、低価格でサービスを提供するワイモバイルブランドを自身で立ち上げており、好調を維持していることから、低価格サービスを展開するMVNOへの回線貸し出しを積極化する理由にも乏しい。それゆえ、飛騨高山ケーブルネットワークのような小規模事業者や、10月12日にANAが提供を開始した「ANA Phone」のような、高価格で付加価値を備えたMVNOに、回線貸し出しを限定したい様子も見られる。

だがかつて付加価値型のMVNOに力を入れ、低価格のMVNOに向けた回線貸し出しに消極的だったKDDIも、現在は低価格をうたうMVNOのいくつかに回線を提供するに至っている。またソフトバンクにレイヤー2接続を申し入れていた日本通信が、交渉が決裂したとして総務省に接続協定に関する命令を申し立てるなど、ソフトバンクに対しても、MVNOの側からネットワーク借り入れを求める声が出てきているようだ。

それだけに、フォローアップ会合で出た結論によって、ソフトバンクとNTTドコモの接続料がどこまで縮まるのか。それによってソフトバンクの回線を借りたいというMVNOがどの程度増え、ソフトバンクがどのような対応をとっていくのかは、大いに注目されるところでもある。まずは接続料に関する議論が出た上で、ソフトバンク側がどのような反応を見せるかを確認したいところだ。

(佐野正弘)