(左)日本女子大学生涯学習センター所長 坂本清恵さん(右)通信教育・生涯学習事務部 茂木知子さん

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以前よりもぐんとチャンスが広がってきたブランク女性の再就職。「いつかは私も!」と思い立ったときからできる準備は何? 女性を送り出す再就職支援教育側、雇用する企業側、それぞれの立場からアドバイスをもらいました。

「自分のキャリアを磨き直して、もう一度社会で活躍したい。そんな気持ちで行動を起こす女性は増えてきていると感じます」

そう語るのは、2007年より女性のための再就職支援プログラムを提供する日本女子大学生涯学習センター所長の坂本清恵さんだ。2016年春の募集では40人の定員に対して76人の応募があるなど(入学者の平均年齢は38.9歳)、ニーズの高まりを実感しているという。

離職期間のある女性のキャリア再教育にいち早く取り組んできた立場から考える「ハッピーな再就職のためにやっておくべきこと」とは何だろうか。

「カリキュラムで必修としているのは、どんな職種でも活かせる基礎スキルとしてのITや英語の科目です。さらに、ビジネス文書やメールのやりとりなど日本語でのコミュニケーション力についても磨き直しが必要だという要請を受け、科目を新設しました。加えて重要なのが、自身がどのように社会復帰して将来のキャリアを設計していくかを考える“キャリアマネジメント”の意識の醸成です」(同大学の茂木知子さん)

ビジネスという市場に一歩を踏み出すにあたって、自分の性格や能力、環境を客観的に分析しながら、需要に応えられる資質を磨く意識を持つことが再就職の第一歩になるという。

自分がどう働きたいかをイメージできたら、必要になるスキルを磨き直すアクションを起こしていく。簿記や貿易実務など、それぞれの仕事に特有の専門スキルを学ぶことも大事だが、「どんな仕事でも共通して求められるのが“社会性”」と茂木さんは強調する。

「仕事というのは様々な人と関係を築きながら進めていくものなので、チームワークや顧客との交渉・相談などで発揮されるコミュニケーション力が重視されます。長く仕事から離れていると、自分の世界に閉じこもってしまう傾向はどうしてもあるので訓練が必要なのです。同僚と意見を言い合い、一緒に目標達成していく喜びを分かち合う関係性づくりに慣れることは、再就職成功のために非常に重要だと感じています」(茂木さん)

その社会性を育むためのトレーニングとして効果を上げているというのが、ビジネスの現場での実地訓練。同大学では西友と共同で再就職のための体験型プログラムを実施し、2016年で3回目を迎えた。参加者は企業の現場で課題解決の提案を行い、経営陣から講評を受ける。よりよいサービスのための意見を出し合い、皆の前でプレゼンし、アドバイスを受けるという一連の体験を通過した後の女性たちは、自信を取り戻したかのように明るくなるのだそう。「学校に通う、という行動そのものも、社会とつながるトレーニングになっているのでしょう」(坂本さん)

企業側の意見も一致している。育児や介護と仕事を両立している自社の社員のサポートに早くから力を入れてきた、リコーのダイバーシティ推進グループリーダーの児玉涼子さんによると、休業中の社員に対するサポートとして特に重視しているのが「コミュニケーション」だという。

「一つには上司と定期的に状況を共有するといった職場とのコミュニケーション。もう一つが、不安解消のための“社会”とのコミュニケーションです。例えば、育休中に参加できるプロボノ活動などを紹介すると、参加した社員からは『刺激を受けた』『また仕事を再開するイメージが持てた』とよい反応が返ってきます。もちろん、休業の第一義は自分自身や家族の健康と生活の充実ですが、無理のない範囲で社会と接点を持つ機会をつくるといいと思います」(児玉さん)

では、採用側の視点から、ブランクがあっても魅力的に感じるのはどんな人材なのだろうか?

「自身が身につけている経験やスキルに対して客観的な評価をして、強みとして活かせる方。かつ、ブランクという期間そのものを活かして前向きにアピールできる方は企業も興味を持つのではないでしょうか」(児玉さん)

育児など仕事以外の活動に深く関わっていた経験によって得られたインプットやスキルを仕事でも活かせる。そんな“フィードバック力”のある人なら、離職していても、今後は女性の労働力への期待からも採用ニーズは高まっていくと児玉さんは予測する。自身もワーキングマザーとして学校の役員活動などを通じ、様々な学びを得たという経験に基づいている。

「能力の高い女性にいかに活躍してもらうかは、企業にとっても大きな課題です。復職に際して不安なことがあれば何でも率直に伝えて、相互にとって納得のいくスタイルを見つけていく努力が大事だと思います」(児玉さん)

とかく不安を感じがちなブランク女性たちに、茂木さんはエールを送る。

「長い人生の中で、再就職はキャリアを見直すチャンス。40歳でも、あと20年以上。これからどんな仕事を楽しんでいきたいか、じっくり考えて方向を定められる機会だととらえてみてください。前職の経験を大事にしながら、まっさらな気持ちで第2のキャリア人生にこぎ出そう。そんな気持ちがハッピーな再就職を引き寄せると思いますよ」

■復帰をかなえる3ステップ

▼STEP1:どんな仕事を、どんな働き方で始めたい? 仕事復帰の基本方針を決める

まずは「どんな仕事を、どんな働き方で実現したいか」というイメージを描くことが第1ステップ。前職の経験も踏まえて、自分が得意な分野、能力を活かせる分野、そしてそのニーズがどんな業界にありそうか、自己分析と市場リサーチを始めてみよう。同時に、今のライフスタイルで無理のない「働くペース」をじっくり考えてみて。決して無理をしないことが、満足できる再就職のポイント。

▼STEP2:「もう一度働きたい」という意思を外に発信! 必要なスキルを磨くなどアクションを起こす

強い意欲があっても、それを表に出さなければチャンスはやってこない。希望する仕事のイメージがぼんやりとでも固まってきたら、情報が集まりそうな人に話す、エージェントに登録するといったアクションを起こそう。意外なところからチャンスが巡ってくることも。また、その仕事に求められるスキルの磨き直しも始めて。本を読んだり、セミナーや学校に通ったり、学ぶことが自信にもつながる。

▼STEP3:ボランティアやアルバイトで「働く私」に慣れるための実践プチトレ

再就職を目指すブランク女性にとって最大のハードルとなるのが「自信をいかに取り戻すか」という課題。一番の特効薬になるのが、実地での“慣らし運転”。例えば、近所のNPOでボランティアをやってみる、希望職種に近い仕事のアルバイトをやってみるなど、実際の職場で少しずつ勘を取り戻すためのきっかけをつくってみよう。生活リズムを徐々にシフトしていくためにも効果的。

 

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坂本清恵
日本女子大学生涯学習センター所長。女性のための再就職支援プログラム「リカレント教育課程」が属する生涯学習センターのトップ。近代の日本語の発音を探る研究を専門とし、センターでの講義も行う。同大学文学部教授。
茂木知子
通信教育・生涯学習事務部。「リカレント教育課程」のカリキュラム作成や広報など運営全般に携わる。女性の再就職事情にも詳しい。
児玉涼子
リコー コーポレート統括本部 人事統括センター 人事部ダイバーシティ推進 グループリーダー。採用、福利厚生など人事部門でキャリアを積む。出産、育児休業を経て現職。育児や介護と仕事の両立をする社員への施策にも力を入れる。

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(宮本恵理子=文 小野さやか、Shunsei Takei=撮影 イラスト=カトウミナエ)