人気の婦人服ブランド「アース ミュージック&エコロジー」をはじめとする16ブランドを国内外で展開するストライプインターナショナル。「消費者も気づいていない新たなニーズ」を創造しようと、主力事業の営業利益の3割を新規事業に投資している。前回の記事はこちら

 私たちは、ファッションブランドをいくつも展開しています。一方で、2013年にハンドクリームや化粧ポーチなどを扱っている「Maison de FLEUR(メゾン ド フルール)」、14年には厳選した野菜やフルーツなどを使用したアイスクリームショップ「BLOCK natural ice cream(ブロック ナチュラル アイスクリーム)」と、アパレル以外の新規事業も積極的に立ち上げてきました。

 「Maison de FLEUR」は、新宿駅直結の店舗「ルミネ新宿」の中で、1坪当たり月100万円を売り上げています。

 売り上げは好調ですが、実は、Maison de FLEURには、売り上げには関係なく、事業を撤退しなければならない目安があります。それは、当初設定していた資金が底をついたときです。アイスクリームショップのBLOCK natural ice creamの場合も、設定資金が決まっています。つまり、新規事業がスタートする時点で、明確な撤退ルールを設けているのです。

BLOCK natural ice creamは、岡山県、東京都、千葉県、大阪府の4店舗のほか、期間限定でポップアップを展開
BLOCK natural ice creamは、岡山県、東京都、千葉県、大阪府の4店舗のほか、期間限定でポップアップを展開

 ストライプインターナショナルの強みは、毎年、主力事業の営業利益の3割という多額の資金を新規事業開発につぎ込み、主力事業の元気がいいうちに次の種をまいてきたことがひとつ。そして、もうひとつは、先ほど説明したように、その種にどこまで水をやるかを、スタート時点で決めていることです。

 新規事業の資金が底をついたあとはどうするか? 選択肢は2つあります。

 例えば、あるブランドの投資限度額が50億円だとしましょう。仮に100店舗まで展開したとしても、使った金額が50億円に到達した時点で、2種類の会議のどちらかを開きます。ひとつは「撤退会議」で、もうひとつは「退店会議」です。

 撤退会議は、100店舗を全部閉店して、廃業にするという選択肢です。退店会議は、100店舗のうち70店舗を退店して、利益が出ている30店舗だけを残す方法です。

 全店が赤字であれば、廃業しかありませんが、ほとんどの場合は、黒字が出ている店舗を残します。

 赤字店舗を撤退する際には、追加の損失が発生しますが、これは役員会議で承認するようにしています。ただ、これだけでは終わりません。

 何をするか。赤字店舗の一方で、利益が出ている店舗がありますから、その30店舗に可能性があると考え、体制を立て直し、新たに限度額を設けて追加投資をします。利益が出る店舗への投資で、事業は先々黒字になります。そして将来的に収益を稼げるブランドにするのです。

赤字店舗を閉鎖し、黒字店舗で収益を上げる
赤字店舗を閉鎖し、黒字店舗で収益を上げる

 撤退ルールには、投資金額だけではなく、投資期限も設けています。例えば、最近一番短く設定しているのが、アイスクリームショップのBLOCK natural ice creamです。現状で設定した資金を使ったら撤退です。飲食事業はノウハウもアパレルと全然違うので、期間も短め、投資額も控えめにしました。

 投資期間を少し長く設定している事業もあります。グループ会社で手掛けている「プレミアムジャパン」という国内外向けの情報サイトです。富裕層向けに、日本製で質の高い食器や食品、国内の宿泊施設などを日本語、英語、中国語で紹介していますが、デジタルメディアなので、回収には時間がかかるかもしれないと見込み、期間を少し長めに設定しました。

 新規事業の中で、これまで最も投資規模の大きな新規事業は、14年に立ち上げたアパレルブランド「KOE」です。50億円を投資し、10年間で育て上げようと考えていますから、この規模は結構本気です(笑)。

 KOEは、初の欧米進出を狙ったブランドです。世界的な支持を得るために、製造から販売までの労働環境や、工場から出る産業廃棄物による環境汚染にも配慮するなど、ファッション業界でも先駆的な「フェアサプライチェーン」をうたっています。

 ブランドコンセプトは"Mode for everyone"。「モードなのに着心地がいい」「モードなのに気軽に着られる」「モードなのに動きやすい」「モードなのにリーズナブル」「モードなのにファミリーライン充実」な服を、子供から大人まであらゆる世代、様々な人種に向けて提供しています。

 こうした新規事業を立ち上げる際には、横軸が年数、縦軸が金額になるように設定したマトリックスに各ブランドを当てはめていきます。今一番右上の箱に入っているのが、KOE。どこに新しいブランドを入れるかとマトリックス図を俯瞰しながら、社員と確認、共有をしています。

 今までの話だと、赤字まではいくらでも拡大できるというイメージで終わりそうなのですが、実はKOEでいえば、10年間で50億円を使い、その次の10年間で投資額分をはるかに上回るほど回収しようというシナリオができています。20年間で、投資額分くらいは黒字になる予定です。

 投資をするときに、私たちが必ず計算しているのは、何年でその投資を回収できるのかということです。IRR(内部収益率)という投資の判断指標を見ています。平均で年率何%儲かるのかを基準にして評価する方法です。こうした数字のシミュレーションはしっかりやっているのです。

 新規事業への投資方法は、他の国内アパレルメーカーとストライプインターナショナルでは大きな違いがあるかもしれません。ある国内大手は、スタートアップブランドの1年目から収支を考えています。例えば、1店舗しか出さずに、ここが黒字になってから次の店舗を開く。ストライプインターナショナルは、これまで説明してきたように、リスクマネーで考えます。投資額と期間を決め、その範囲内で一気に行く。

 この考え方があるからこそ、ある国内アパレルメーカーが退店する区画を全部取りに行くことを考えて立ち上げたアパレルブランドもあります。洋服に関してはノウハウもありますから、1年目から郊外型のショッピングセンターに40店舗を出す予定です。これまでの経験から3年で白黒がつくと分かっているので、1年目から思い切ったこともできます。

 創業以来、攻めと守りを同時に考えるのが、私のやり方です。実は僕の名前「康晴」は、将棋名人の大山康晴さんからとったもの。大山さんは守りながら攻める名人でした。元巨人の長嶋茂雄監督みたいに「攻撃は最大の防御だ!」という人とは違って(笑)、私自身も守りながら攻めるのが好きなんです。

 まず、1年間の主力事業の営業利益の3割を新規事業開発費にあてる。そして、各事業に対して金額と年数の期限を設け一気に勝負をかける。2通りの上限があるので、単年で赤字になるようなこともしないし、かといって守りに入り過ぎて、主力事業が数字を割ったときに、次がないという状態にはならない。

 ストライプインターナショナルは、これからも、守りながら攻めます。

世界戦略ブランドのKOE
世界戦略ブランドのKOE

(編集:日経トップリーダー

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