突然サービスの停止が発表されたチケットキャンプ。転売問題は早くから指摘されていたが、対策を講じてこなかった(撮影:梅谷秀司)

クリスマスライブや年末ライブを目前に控えた12月7日、チケット転売サイト最大手、「チケットキャンプ」が突如サービスの停止を発表した。それから20日が経過した12月27日、今度は2018年5月末にサービスを完全終了することが明らかにされた。

発端となったのは、チケットキャンプを運営するフンザが12月4日から7日まで兵庫県警から受けた強制調査だ。これに関して、フンザの親会社であるミクシィは外部の弁護士を交えた調査委員会を設置。27日にその報告書を公表した。

きっかけは商標権の侵害だった

今回、強制調査の主な対象となったのは商標権の侵害だ。フンザはチケットキャンプで「ジャニーズ応援キャンペーン」などと銘打った施策を行い、「J ジャニーズ通信 Johnny’s News Service」や「宝塚歌劇倶楽部 Takarazuka Revue Club」といったメディアサイトも展開していた。すでに商標登録されているグループ名を使用したことが、商標法や不正競争防止法に違反しているとの疑いがかけられた。

この問題に関して調査委員会は「最終的には司法判断に委ねられるべきものであるが、本件対象メディアにおける本件各商標の使用は、商標法違反又は不正競争防止法違反の疑念を生じさせるようなものであったことは否定できない」と指摘。最終的に法律違反に当たらないという結果になったとしても「最終的に商標法違反又は不正競争防止法違反になるか否かにかかわらず、やはり本件対象メディアにおける本件各商標の使用には問題があったと言わざるを得ない」とした。

ただ、これが問題のすべてというわけではない。チケットキャンプ終了の背景には、事業の根幹である「チケット転売行為」そのものにまつわる問題がある。

もともとチケットキャンプは、チケットを入手したい買い手と、急な用事などでチケットが余った売り手を結びつけることが主な目的だった。しかし事業が拡大するにつれ、営利目的でチケットの売買を行う転売業者が販売先として利用するようになっていた。

音楽コンサートなどの興行では席の人気に応じてチケット価格に差を付けることが少ない。そのため、定価で仕入れてチケットキャンプに流すだけで定価の数倍で売れるチケットも多い。

音楽業界の意見広告が契機


転売業者が横行し、正規でチケットが手に入れにくくなった(本文とは直接関係ありません)(撮影:風間仁一郎)

転売業者は公式抽選に大量の応募を行うことでチケットを仕入れ、高額で転売することで利ザヤを稼ぐ。こうした転売屋の組織的な買い占めにより、一般ユーザーが正規のチケットを手に入りづらくなる事態が生じるようになった。

これに対し、音楽業界を中心とした興行主側は反対運動を展開。2016年8月には音楽関係の4団体が高額転売に反対する意見広告を新聞に掲載したことで、この問題に対する世間の認知は一気に高まった。

意見広告が一つの契機となり、高額転売に対する風当たりは日に日に強まっていった。転売目的でチケットを購入する業者に詐欺罪などの刑事罰が課される事例も出るようになり、その温床となっていたチケットキャンプに捜査当局が照会を行う件数も増していた。さらには、2020年開催の東京オリンピックに向け法規制の強化も検討されるようになった。

ミクシィ側も組織的な高額転売問題は認識しており、興行主側と協調して問題対処を行う姿勢を見せていた。しかし、協議は進まず具体的な対策は取られなかった。チケットキャンプ単独で対策を打つという手もあったが、本人確認や規制の強化を発表したのは意見広告から1年以上が経過した2017年12月に入ってからだ。

それまでは目立った対策がなかったどころか、転売業者に対する優遇措置まで行っていた。転売サービスとして後発だったチケットキャンプは、顧客獲得に向けた施策として大手転売業者に対して通常よりも安い販売手数料を提示。業界最大手になった後も優遇措置は恒常化し、サービス停止時点まで続けていた。


フンザの創業者、笹森良代表取締役。今回の責任をとり、12月27日に辞任した(撮影:梅谷秀司)

こうした高額転売問題に関して、調査委員会は「チケットの二次流通仲介事業のプラットフォーム自体が直ちに違法であるとの評価を受けるものではない」としつつ、「企業活動においては、単なる法令の遵守にとどまらず、社会的な公正や倫理観・道徳観が求められている」と指摘。

そして「本件サービスに関連して商標法等の違反の嫌疑で捜査当局による強制捜査をも受けた事実等に鑑みれば、本サービスを今後も存続させるか否かを含めて慎重に検討すべきものと思料する」と結論づけている。

転売問題がすべて解決するわけではない

留意したいのは、チケットキャンプの終了でチケット転売問題がすべて解決するわけではないということだ。チケットを転売できるサイトはチケットキャンプ以外にも多数存在しており、チケットキャンプのユーザーがそちらに流れる可能性は高い。チケット転売に対するニーズそのものが消滅したわけではないからだ。

転売で利益が生まれる根本にはチケットの人気と定価が比例しない点があり、そこが改善されない限り営利目的で転売活動を行う誘引は残る。また、音楽やスポーツのチケットは何カ月も前に応募しなければいけないが、行けなくなったときに払い戻しが不可能なことが多い。そのため、営利目的でなくともチケットを転売したい売り手も数多くいる。

一部のイベントやコンサートでは、ユーザー同士でチケットのやりとりを行う公式サービスの整備や、人気に応じてチケットに価格差を付けるといった動きが出ているが、今のところ広がりは見られない。チケットキャンプ消滅後も、便利で健全なチケット流通に業界全体で取り組んでいく必要がありそうだ。