日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したボルボのSUV(スポーツ多目的車)「XC60」。内外装のデザインや安全装備の充実度などが評価された(写真:日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員会)

「とにかく、いちばん安全な車が欲しいのですが……」

スウェーデンの自動車ブランド、ボルボの販売店には最近、こんな要望を持ってやってくる顧客が増えているという。ボルボはこの12月、SUV(スポーツ多目的車)の「XC60」が日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した。

ボルボ・カー・ジャパンの木村隆之社長は、「予防安全性能で、ボルボメルセデス・ベンツ、そしてスバルなど国産車を横並びにして比較することなど、以前は考えられなかった」と驚く。実際ボルボの国内販売は、2017年1〜11月に前年同期比8.8%増の1万3989台となっている。


国内での輸入車(外国メーカーの乗用車)の販売が好調だ。2017年の新規登録台数は1997年以来、20年ぶりに30万台を突破する可能性が高い。11月までで27.3万台(前年同期比3.6%増)となっており、昨年12月の実績である3万台を単純に上乗せしても30万台を超える。

乗用車登録台数(軽自動車含む)に占める輸入車シェアは2009年の4.1%(軽自動車除けば6.0%)から2016年は7.1%(同10.5%)へと上昇。国内の乗用車市場が縮小傾向にある中、輸入車はなぜ販売台数を伸ばしているのか。

小型車やSUVのラインナップを充実


メルセデス・ベンツは「GLAクラス」などのSUVや小型車のラインナップを拡充した(写真:Daimler)

理由の一つに各メーカーが新型車種を相次いで日本市場に投入してきたことがある。輸入車販売トップの独メルスデス・ベンツは、代表車種である「Cクラス」「Eクラス」(500万〜1000万円)に加えて、300万〜400万円ほどのコンパクトカーである「A」「B」「CLA」「GLA」を投入してきた。これまで「ベンツは高嶺の花」と考えていた30〜40代の比較的若い層の取り込みに成功した。

また、近年はGLAのほか、「GLC」「GLE」「GLS」など、400万〜1000万円のSUVのラインナップも充実させた。国産・輸入車メーカーの中で最多の7車種をそろえたことで、国産のミニバンなどからの乗り換えが増えた。「2016年はベンツとして世界で”SUVイヤー”と銘打って販売に力を入れた。その結果、国内でも2017年のSUVの台数はこの2年で4割以上伸びている」(メルスデス・ベンツ日本)と成果を強調する。

独アウディも主力の「A3」や「A4」のほか、低価格帯の「A1」などを販売。SUVも今年6月から新たに小型の「Q2」が加わった。Q2は最低価格が299万円という設定で販売が好調。12月までの半年間の当初目標2000台は達成する見込みだ。SUV購入者の平均年齢は20〜30代が26%を占め、40代の29%に続いて多い。若年層を中心に幅広い世代の訴求に成功している。


アウディは小型SUV「Q2」の販売が好調だ(写真:Audi)

仏プジョーは、2017年の欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したSUV「3008」(357万円〜)を今年3月に発売、9月からは3列シートの新型「5008」(404万円〜)を販売している。2017年1〜11月の新規登録台数を前年から10%程度伸ばした。

輸入車の販売はリーマンショック直後の2009年に16万台まで落ち込んだが、その後、比較的低価格の小型車を輸入車メーカーが市場投入。主に200万〜300万円の価格帯の車が伸びて、全体の販売台数を押し上げた。

最近は高価格帯の車がよく売れる

ただ近年の傾向を見ると、むしろ400万円以上の価格帯の輸入車が伸びている。日本自動車輸入組合(JAIA)によると、400万円以上の輸入車の新規登録台数は2016年に12.5万台となり、この5年間で5万台増えた。一方、399万円以下の台数は15万台強で横ばい。低価格帯の車種が多い独フォルクスワーゲンの燃費不正問題の影響もあるが、比較的高価格帯の輸入車が近年売れていることがわかる。

さらに、機能面にも注目が集まっている。国産車よりも輸入車を選ぶ人の中には、安全運転支援機能やコネクテッド(つながる車)などを求める人が増えているようだ。


ボルボは安全運転支援機能に注力。自社の車による交通事故死ゼロを目指す(写真:Volvo Car Group)

いわゆる自動ブレーキや車線逸脱防止装置など、多様な安全機能を搭載した車が国産・輸入車問わず増えている。テレビCMや報道などの影響もあり、消費者の関心も高まった。ボルボは、先進安全・運転支援機能「インテリセーフ」を全車に標準装備し、「2020年までに新しいボルボ車での交通事故による死者数や重傷者をゼロにする」という目標を掲げる。こうしたメッセージにより、「ボルボは安全」というイメージが消費者に広がっている。

メルスデス・ベンツもつねに周囲360度を監視することで事故を予防する安全運転支援システム 「レーダーセーフティ」などを装備。また2017年7月発売の新型Sクラスには最新の通信機能「メルセデス・ミー・コネクト」を搭載した。故障や事故の際にコールセンターにつながるほか、レストランやホテルの予約、緊急時の病院の案内なども車内で可能になった。

こうした機能面の充実が輸入車販売にどれだけ貢献しているかを端的に示すデータはない。ただ、「消費者が車を選ぶ際に何を重視するか」という点についての興味深い調査がある。顧客満足度を調査するJ.D.パワーは2017年6〜7月、新車購入を検討している1万人を対象に「日本新車購入意向者調査」を実施した。


アウディはインパネの画面をメーターにしたり、カーナビにしたり、ボタン1つで切り替えられる「バーチャルコックピット」をオプション装備にするなど、機能の充実を図っている(写真:Audi)

「輸入車ブランド」を候補の1位に挙げている人が最も重視するポイントは「外装や外観のデザイン」。そして「走行性能」「安全性能」が続く。一方、「国産車ブランド」を候補の1位にしている人の理由は、「購入価格」がトップで、続いて「外装や外観のデザイン」「燃費の良さ」を挙げた。つまり、輸入車を選ぼうという人は価格や燃費よりも、輸入車独特のデザインや性能をより重視しているということだ。

個性や安全性能で輸入車が選ばれている

J.Dパワー・アジア・パシフィックでオートモーティブ部門執行役員を務める木本卓氏は輸入車を選ぶ人の特徴として、「商品の質感を大切にする人」「没個性を嫌う人」「最新の安全装備に追加費用を払っても構わないと思う人」「プライベートな空間を大切にする人」などを挙げる。国産・輸入車の両方を販売する千葉マツダの大木康正社長も、「輸入車を選ぶ人は、安全に対するメーカーの姿勢やブランドにまつわるストーリーに共感するケースが多い」と話す。

「輸入車が売れている理由は1つ。消費行動が2極化し、優先順位が高いものにしっかりとおカネをかけているから」。冒頭のボルボ・ジャパンの木村社長はそう断言する。自分が好きなものやこだわりを持つものにおカネをかける一方で、そうでないものに対しては財布のひもを締めるという消費行動がよく見られるようになった。モノやサービスがあふれる成熟した先進国で起こる現象で、これが自動車の消費行動にも及んでいる可能性がある。


日本カー・オブ・ザ・イヤーの授賞式で表彰後に笑顔を見せたボルボ・カー・ジャパンの木村社長(右)(写真:日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員会)

実際、ボルボも以前より高単価の車種が売れているという。「この3年で台数は2割増えたが、売上高は5割増えた」(木村社長)。2014年当時の平均単価は300万円台前半だったが、2017年は500万円を超えたという。400万円以上の輸入車の台数が伸びているのも同じ理由からだろう。

ただ国内メーカーもSUVの新型車を積極的に投入している。安全運転支援機能も軽自動車にまで広がってきた。輸入車の”復活”は本物か。見極めるには、2018年以降の動向も注視する必要がある。