業績が絶好調だった珍味最大手なとりをイカ不漁が直撃している(編集部撮影)

家計の節約意識が高まり、シニア層を中心に「家飲み」需要が広がりを見せている。その家飲みに欠かせないのがイカやチーズなどのおつまみだ。

「ひとつまみの幸せ」を企業メッセージとして、イカやサラミ、チーズ、ナッツなど多品種のおつまみを製造販売する珍味大手のなとりも、この家飲み需要を背景に業績を伸ばしてきた。だが、近年のイカ不漁が響き、原料価格の高騰を余儀なくされている。

売上高の25%を占めるイカ製品

なとりが11月6日に発表した2017年4〜9月期(第2四半期)決算は、売上高が前年同期比9%増の220億円だったものの、営業利益は同58%減の6.5億円に落ち込んだ。「国産スルメイカの記録的な不漁に伴い、原料価格が高騰」(会社側)したことが最大の要因だ。

同社の主力は、あたりめなどイカ関連やかまぼこ、茎ワカメを中心にした水産加工製品。2016年度決算で見ると、売上高433億円のうち約44%を占め、柱のイカ製品の構成比率は約25%に達する。その割合からいっても、イカ不漁による原価高騰の影響は少なくない。

日本近海は世界有数のイカの漁場として知られ、約140種類のイカが生息している。最も多く取れるのがスルメイカだが、2016年の漁獲量(農林水産省統計)は過去最低の6万7800トン、しかも前年の12万9500トンからほぼ半減という低迷ぶり。2017年も1〜9月の全国主要港の漁獲量は1万7000トンと前年同期を25%下回っている。

なぜ、不漁が続いているのだろうか。原因の1つと考えられているのが海水温の変化。スルメイカの漁獲量全国一(2016年)の青森県によると、「2015年12月から2016年3月にかけての産卵期に東シナ海の海水温が下がりました。これが卵の孵化に大きく影響し、孵化しても死滅したのではないか。この冬季のイカ漁も低レベルの水準です」(水産振興課)と話す。

また、日本の排他的経済水域(EEZ)内にある好漁場「大和堆」での外国船籍によるイカ漁の違法操業も、日本近海での不振を招いている。

なとりはこれまで、このスルメイカの安定的な供給の下で業績を伸ばしてきた。2014年度にスタートさせた「4カ年中期経営計画」では、最終年度に目標としていた売上高400億円を、すでに2年目の2015年度で達成。

営業利益も2014年度の18.8億円から2015年度に22.1億円と過去最高を記録した。


業績拡大を後押ししてきたのが家飲み需要の広がりだ。アサヒグループホールディングスお客様生活文化研究所が2017年6月に実施した調査によると、「家飲み」の頻度について「週2日以上」と答えた人の割合は計75%だった。ここ数年は同様の高い割合で推移している。

「週4回以上」という回答は40代52%、50代55%、60代61%、70代以上71%と年代とともに高まる傾向がみられた。会社帰りの一杯から家飲みを楽しんでいる層の拡大は明らかだろう。

埼玉県に新工場を竣工

さらに新製品の積極投入や「各エリアの嗜好に合った製品の重点投入」も業績拡大を下支えしている。新製品は春夏秋冬という季節対応のほか、ハロウィンスペシャルなどといった限定商品の発売にも意欲的に取り組んでいる。

主力のイカ関連をはじめ、「チーズ鱈」や「おつまみチーズアソート」「THEおつまみBEEF」「燻製ポークジャーキー」「茎レタス」など市場定着した製品も数多い。

おつまみの嗜好は地域によっても微妙に異なる。例えば、関東では濃い味、関西では薄味ベースが好まれるといった具合。そうしたエリア特性に対応した製品によって、スーパーやコンビニなど取引先のインストアシェアの拡大を図るという営業戦略で伸ばしてきたことも大きい。

また、華やかな芸能界にあって、堅実な女優という印象を持つ和久井映見さんを起用したテレビCMも同社のカラーを浮き上がらせ、販売促進に貢献している。

とりわけ、最近はジャーキーやドライソーセージなどの畜肉加工製品のほか、「チーズ鱈」やおつまみチーズなどの酪農加工製品の伸びが著しい。これらの需要増に対応し、埼玉工場(埼玉県久喜市)の隣接地に約50億円(建物・設備)を投じて新工場を建設し、今年7月に本格稼働させている。

これにより、旧工場はドライソーセージやジャーキーなど畜肉関連の主力工場とする一方、新工場は「チーズ鱈」をはじめとした酪農関連の専用工場として、拡大する需要に対応していくことが可能になった。 

これまで、なとりはイカ不漁に伴う原料高騰に「スルメイカの産地変更」や「イカ製品の規格変更」を軸に対応している。産地変更とは、漁獲コストが日本産に比べて安価な韓国や中国産への切り替えだ。規格変更とは、容量を減らして実質的に値上げする、いわゆる「シュリンクフレーション」である。

コスト増を直接、販売価格に転嫁して値上げをすると消費者から敬遠されてしまう。そこで、容量を小さくして価格を極力変えない戦略でもある。広く食品業界で普及している手法であり、何もなとりに限ったことではないが、このシュリンクフレーションも原料高騰をしのぐ有効策となっている。

加えて同社は、スルメイカに依存しない水産加工製品の拡充にも一段と力を入れている。すでに鮭やホタテ、昆布などイカ以外の水産製品も幅広くそろえ、最近ではマグロなどの新素材を活用した新ジャンルの育成にも意欲を燃やす。畜肉や酪農加工製品の拡大と併せ、多様化する消費者のニーズを着実に取り込んでいるのである。

期待がかかる年末商戦


年末商戦に期待がかかる(編集部撮影)

同社は2016年度決算で、いったん業績見通しを大幅に引き下げたものの、「スルメイカの産地変更やイカ製品の規格変更が想定以上に進んだ」(会社側)として、営業減益幅を縮小した経緯がある。

2017年度は前述のように第2四半期の営業利益は大きく落ち込んでいる。会社側は、海外産切り替えや容量減による採算改善が進むとして、期初に公表した営業利益見通し20.5億円(前期比3%増)を据え置いている。

年末にかけて、家飲み需要はさらに広がる。高水準の営業利益を維持できるかどうかは、冬季の新製品を軸にした、この年末商戦にかかっている。