有楽町マルイで期間限定ショップとしてオープンしている「ゴジラ ショウ スペース」。往年の映画ファンだけではなく、若い女性や家族連れも数多く訪れている(撮影:梅谷秀司)

女性客を中心ににぎわうファッションビルと、日本で最も有名な怪獣が“異色タッグ”を結成した。

関東圏を中心にファッションビルを運営する丸井グループが、東宝の特撮怪獣映画「ゴジラ」とのコラボ事業を積極化している。有楽町マルイでは、2017年11月10日から2018年1月8日までの期間限定ショップ「ゴジラ ショウ スペース」を開設している。

20〜30代女性も訪れる

Tシャツやキーホルダーなど公式グッズを販売する物販コーナーだけでなく、映画制作にまつわる貴重なアイテムを集めた展示室も併設。歴代ゴジラの着ぐるみ頭部や絵コンテなど、ゴジラシリーズの歴史を体感できるコーナーを設置した。  


コアなファンに人気のゴジラ関連のTシャツ(撮影:梅谷秀司)

ゴジラが咆哮するジオラマに加え、映画で使用した着ぐるみにじかに触れることができるコーナーを設けるなど、細やかな仕掛けも講じている。

「すごーい。ゴジラだ」。平日の正午ごろに同ショップを訪れると、ゴジラのジオラマを見た女児が母親の側で目を輝かせていた。年齢をたずねると、母親は「2歳です。恐竜が好きなので連れてきた」と答えてくれた。

この期間限定ショップには往年の映画ファンだけでなく、20〜30代の女性や親子連れも数多く訪れる。「集客は非常に好調」と、丸井の青木正久執行役員は語る。

ゴジラシリーズは1954年に第1作が公開されてから63年を経ても、映画ファンから今なお高い支持を得ている。近年では2016年7月には庵野秀明氏が脚本・総監督を務めた「シン・ゴジラ」が公開されたほか、2017年11月に初のアニメーション映画「GODZILLA 怪獣惑星」が封切りされたこともあり、一段と注目を集めている。


ゴジラ ショウ スペース」の物販コーナー。フィギアやスマホケースなど幅広い商品を取り扱う(撮影:梅谷秀司)

丸井では「ゴジラ ショウ スペース」に先駆けて、2017年10月、「新宿マルイ アネックス」に世界初となるゴジラ公式ショップの常設店「ゴジラ・ストア Tokyo」を開業した。わずか15.5坪の店舗ながら、映画ファンに人気の高いフィギュアやDVDといった定番品、スマホケースなどの限定グッズを中心に約500種類の商品を扱う。

商品展示のノウハウが求められることもあり、「店長には、有楽町マルイ紳士服売場のエース級販売員を投入した」(青木執行役員)。ほかにも、社員4名を常駐させているという。

東宝から持ち込まれた企画だった

ゴジラ・ストアは2年ほど前に、東宝から丸井に持ち込まれた企画だ。東宝は新宿東宝ビルに「ゴジラヘッド」と言われる巨大オブジェを設置していることもあり、「新宿をゴジラの聖地にしたい」との思いがあった。グッズ開発や店舗運営に関するノウハウが乏しかったために、丸井に協力を求めたようだ。


ゴジラ ショウ スペース」の物販コーナーの入り口では「シン・ゴジラ」のマスクが販売されていた(撮影:梅谷秀司)

一方、丸井はアニメを中心とするコンテンツ関連事業に力を注いできた。2015年10月の開設準備室を経て、2016年4月に「アニメ事業部」を立ち上げた。社内にアニメ好きの社員が多いことに加え、「1部上場企業の中でも、屈指のアニメ好き社長」と称される青井浩社長の存在が発足を後押しした。

アニメ事業部は丸井の中期戦略において、重要な意味を持つ。同社は今2017年度業績が売上高2455億円(前年度比3.6%増)、営業利益350億円(同12%増)と、増収増益の数字を見込む。

足元は好調だが、中期的にはアパレル市場の減退を見据え、「百貨店ビジネスからの事業構造転換」を標榜する。小売業態は従来の百貨店型から、店舗スペースを貸し出して賃料収入を得るショッピングセンター(SC)型へ転換を推進。収益柱のカード事業は、EC(電子商取引)系企業やコンテンツ系企業との連携に力を入れている。


丸井グループの青木正久執行役員はアニメ事業の重要性を強調する(撮影:梅谷秀司)

アニメ事業部は、こうした方針に沿って、成長戦略の1つとして打ち出した新機軸である。同事業部にはさまざまな収益源がある。最も大きいものは、地方のSCなどに出向いてイベント企画を実施し、そこでのグッズ販売による売り上げだ。2017年はすでに「おそ松さん」「ラブライブ!」などのイベントを行っており、年間では300のイベント企画を計画する。

リアル店舗だけでなく、WEBでもアニメグッズを販売する。 2016年4月からECサイト「マルイウェブチャネル」でTシャツや缶バッジなどのアニメグッズ販売を開始。さらに、映画作品へ投資し、製作委員会へ参加することもある。

相乗効果を狙うアニメ強化

とはいえ、青木執行役員が「単独で事業柱へと育成することを目指すのではない」と強調するように、アニメ事業部はカード事業やWEB販売との連携による相乗効果の創出を主眼にしている。

たとえば、カード事業との連携。丸井のエポスカードでは、新規会員がアニメのキャラクターをイラストしたカードを申し込むケースが増えている。2017年5月まで新規会員のうちアニメカードの比率は2%程度だったが、人気漫画「銀魂」カードの効果で6月には10%に上昇。さらに、女性向けを意識したイラストのゴジラカードを投入したことで、同年10月には15%にまで膨らんだ。

マルイウェブチャネルでアニメグッズを購入した顧客のうち、新規客の比率は69%と、WEB全体の42%よりも高い。30代以下の若い層に限ると、82%を新規客が占める(WEB全体は56%)。

丸井はアニメ事業を核としたグループへの利益貢献を2017年度20億円(計画)から、2020年度70億円に拡大する目標を掲げる。アニメを切り口に新規客を取り込み、グループ全体の底上げを実現することはできるだろうか。