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データで見るM1グランプリ2017 〜本当に一番面白かったのはどの漫才だったのか〜

2001年、第一回M1グランプリが開催されました。当時高校生だった僕はブラウン管のテレビにかじりつくように見ていたことを思い出します。2017年、M1も今回で13回目となりましたが、あのヒリつくような緊張感と感動は第一回の頃から変わらないばかりか、より加速しているようにも思えます。

今回は視聴率も近年の中では高かったようで、また漫才のレベルも非常に高かったと言われていますし僕自身もそう感じました。


とろサーモン優勝。


素晴らしい漫才でしたね。他のコンビも素晴らしかったですが、優勝にふさわしい漫才でした。M1には結成15年以内のコンビしかエントリーできない制限があるためラストイヤーとして挑んだとろサーモンは、その技術力と気迫が最高におもろい漫才を生み、審査員たちをうならせ、文句のつけようのない結果となりました。



いや、果たしてそうだろうか??



本当に一番面白かったのはとろサーモンだったのでしょうか。和牛の方が面白かったという声もあります。ジャルジャルの漫才が最高だったという声もあります。

いや、そんなことを言ったって、審査員はこの道のプロ。彼らの採点に間違いなどあるはずがない。そういう意見もあるでしょう。特に、ダウンタウン松本の笑いが分からん奴はアホと言われて育ってきた僕たちの世代は、彼らの採点を疑問視することに抵抗があります。

でも何となく納得のいかないところもある。一体どうしたらいいんだ。こんな時、何を信じればいいんだ?そもそも「面白い」ってどういうことなんだ!!



みなさん、落ち着いてください。僕たちにはデータがあります。こんな時は、データを見ましょう。人の意見やメディアに惑わされてはいけません。まずはデータを分析するのです。そしてそこから洞察を得るのです。答えはデータの中にあります。


ということで、本当にウケていたのはどの漫才なのか、なぜとろサーモンが優勝したのか、分析してみました。

今回分析したデータセットはTwitterから取得したツイート465,990件。ツイートの取得方法は以下の記事を参照ください。

www.analyze-world.com

ツイートの取得にはPython、分析にはRを用いています。分析コードはこちら。

github.com

今回は、M1放送前(12:00 – 18:59)、決勝ファーストラウンド(19:00 – 21:29)、最終決戦(21:30 – 22:05)の3つに分けて、それぞれの期間のツイートを分析していきます。なお、ツイートを22:05までしか取得していないのは、22:06に優勝者が決定してからはとろサーモンに関するツイートが急激に伸びており、それが混ざるのを防ぐためです。

なお、これより先は、師匠、兄さん、姉さんなどの敬称は割愛させていただきます。

1. 放送前

まずは放送前に各コンビがどの程度注目を集めていたのか、簡単に見ておきましょう。M1が実施された12/3の12:00から、放送が始まる19:00直前までの、各コンビに関するツイート数がこちら。

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敗者復活戦が14:30 – 16:30で放送されていたためか、16:30ごろにそれぞれピークが見られます。

なんと、優勝したとろサーモンについてのツイートはほとんどありません。これは、事前の注目度が低かったことを物語っています。対して注目度が高かったのは、和牛、かまいたち、ミキ。特に和牛とかまいたちは優勝候補としての前評判が非常に高いことが、番組内でも紹介されていました。

2. 決勝ファーストラウンド

続いて、決勝ファーストラウンドです。この決勝ファーストラウンドで最も点数の高かった3チームが最終決戦に進むことができます。

なお、ファーストラウンドのネタ発表順は以下の通りです。

1. ゆにばーす
2. カミナリ
3. とろサーモン
4. スーパーマラドーナ(敗者復活枠)
5. かまいたち
6. マヂカルラブリー
7. さや香
8. ミキ
9. 和牛
10. ジャルジャル

放送開始の19:00から、最終決戦が始まる21:29までの、各コンビに関するツイート数推移が以下のチャートです。

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連続した山と谷が見えます。このグラフを眺めていると、漫才中は行儀よくテレビに集中し、漫才と漫才の間に急いで感想をツイートしているお茶の間の風景が目に浮かぶようです。

まず、敗者復活戦の勝者としてスーパーマラドーナが発表されたので、最初はスーパーマラドーナのピークが現れています。その後、一番手のゆにばーすからネタ発表の順番に山が並んでいます。

全体として、後半の方がツイート数が多いことが分かります。これは、後半に面白いネタが固まっていた、という要因もあると思いますが、後半に向けて視聴者数が伸びていることが背景にあると考えた方がいいでしょう。

また、仮に視聴者数の影響がなかったとしても、ツイート数が多い=面白い、と安直に結びつけるのは危険です。わざわざツイートしたくなるほど面白くなかったという可能性もありますし、ネタ後の審査員とのやりとりの影響で跳ねているのかもしれません。

そこで、 以下のようにPositiveなワードが入ったツイート、Negativeなワードが入ったツイートをカウントします。

Positive: 「面白い」、「おもろい」、「おもしろい」、「好き」、「大好き」、「笑」
Negative: 「おもんない」、「おもろない」、「嫌い」

「スキ」「キライ」「大嫌い」「面白くない」などのワードを含むツイートはほとんど無かったため、対象外としています。

さらに、前半後半の視聴者数の偏りを取り除くため、これらのPositive/Negativeツイートが何%入っているか、割合をプロットします。

なお、これより先は、「とろサーモンも面白いけどミキの方が好き」のような2つ以上のコンビ名が入ったツイートは、単語単体を抜き出して内容を評価することが難しいため除外し、コンビ名が1つだけ入ったツイートを分析対象としています。

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ジーザス!

驚くべき結果です。実際の結果と比較してみましょう。

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M1グランプリ2017オフィシャルHPより引用

視聴者が明確に「面白い」や「好き」などのPositiveワードを含めてツイートしているのは、最終決戦に進んだとろサーモン、ミキ、和牛よりも、ゆにばーす、さや香に対して顕著です。

ゆにばーす、さや香といえば、司会者の今田耕司や審査員が会場のお客さんの反応について言及していたことを思い出します。

ゆにばーすのネタ発表後

今田耕司「気持ちいい返りがガンガン来てましたけど」「トップバッターでこれだけ盛り上がるのはM1では珍しい

松本人志「お客さんの反応がすごくいいでしょ。これが彼らの実力なのかお客さんがいいのか、最初やから分からないんですよね

さや香のネタ発表後

今田耕司「お客さんをグッと味方につけたような感じがしました

オール巨人「お客さんがすごいよかったよね

つまり、会場のお客さんにめちゃくちゃウケていたということです。ツイート分析の結果と合わせて考えると、視聴者が一番面白いと感じたのは、実はゆにばーすとさや香だったのではないか、と考えられます。

M1は面白さだけではなく、技術力、展開力、新規性なども同時に求められていることは審査員のコメントから明らかです。この辺りはプロの芸人ではない視聴者が感じ取ることは難しく、必ずしも視聴者が面白いと感じたコンビが審査員に高評価されるとは限りませんが、このツイート分析から新たな視点が得られたのではないかと思います。

ちなみに、Negativeツイートは全体的に少ないですが、比較的多いのは、ジャルジャルと点数が一番低かったマヂカルラブリーです。ジャルジャルはPositiveツイートも多いことから、松本人志も「僕は一番面白かったんですけどね、そうでもないという人もおるかな」と言っていたように賛否分かれるネタだったということでしょう。

3. 最終決戦

それでは最終決戦の分析に移ります。

兎にも角にも、最終決戦に進んだのは、和牛、ミキ、とろサーモンの3コンビです。最終決戦が始まった21:30から、優勝者が決まる直前の22:05までのツイートを見てみましょう。

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ネタ発表順である、とろサーモン、ミキ、和牛の順番にピークが並んでいます。ここでも、後半になるにつれツイート数が増えている傾向が見られます。ただし、ファーストラウンドとは違って、この35分間に視聴者数が劇的に増えたとは考えにくいため、その影響は軽微でしょう。それは、とろサーモンのピーク(約1400ツイート/分)がファーストラウンドのジャルジャルのピーク(約5200ツイート/分)よりも低いことからも分かります。したがって、ここでは割合で見るよりもむしろ、ツイートの絶対数で注目度を測った方が良さそうです。

一見、和牛の注目度が一番高いように見えますが、ここでも、ツイートの中身を確認していきます。最終決戦中は、「どのコンビが優勝するだろうか」「どのコンビが良かったか」についてのツイートが増えます。ここでは、「優勝」「個人的」「一番/1番」を含むツイート数をそれぞれカウントしました。

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なんということでしょう。

「優勝」については和牛が一番多い一方、「一番/1番」と「個人的」を含むツイートはミキが上回っています。

最終結果を改めて確認しておきます。

オール巨人 和牛
渡辺正行 とろサーモン
中川家・礼二 とろサーモン
春風亭小朝 とろサーモン
博多大吉 とろサーモン
松本人志 和牛
上沼恵美子 和牛

最終決戦では、ミキは0票。とろサーモンが4票を得て、3票の和牛を抑えて優勝しています。これは、ツイート分析の結果とは大きく食い違います。Twitterでは「優勝」の呼び声が高かった和牛、ミキをとろサーモンが上回っており、「個人的」に「一番」だと高評価されたミキは1票も得られなかったのです。

ファーストラウンドと同様、ここでもやはり審査員と視聴者の感覚に乖離があると言わざるを得ません。ただ、M1のルールは明確で、視聴者にウケたコンビではなく、審査員から高得点を得たコンビが優勝すると決まっています。

それでは、どうすれば審査員から高く評価されるのでしょうか。

ここで、主成分分析という手法を用いて、ファーストラウンドで審査員が与えたポイントを元に、最も重要な2つの成分を探し出します。それを縦軸、横軸にしたチャートにそれぞれのコンビのポジションと審査員の採点志向をマッピングします。

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横軸の第一成分に64.2%、縦軸の第二成分に16.7%とありますが、これは寄与率といって、これらの成分にデータ全体の情報がどれくらい含まれているかを表します。つまり、このチャートによって、データ全体の80.9%(= 64.2% + 16.7%)が説明されているということです。

また、第一成分、第二成分が何を表しているのかは、定性的に判断していかなければいけません。これは、機械には難しい、人間に任された仕事です。

第一成分は「審査員にとっての面白さ」を表していると言えるでしょう。左のほうに高得点を得たコンビ、右のほうには得点が低かったコンビが並んでいます。審査員は総じて左向きに矢印が伸びており、「面白さ」については全員意見が一致していると考えられます。

それに対して、第二成分は「好み」を表している感じがします。

審査員のコメントから、どのような好みなのか紐解いてみましょう。

まずはチャートの上の方を見ます。かまいたち、スーパーマラドーナに対して、オール巨人は「入り方が良かった」と評しています。一方、中川家・礼二と博多大吉はより後半の展開を重視しているコメントを残しています。例えば、ジャルジャルに対して中川家・礼二は「何か違う展開が欲しかった」、博多大吉は「もう一展開期待した」と述べています。また、博多大吉のスーパーマラドーナへのコメント「最後なにかもう一個あればもっと点数高かった」からも、後半の展開力を重視して採点していることが分かります。

次にチャートの下の方を見ましょう。和牛のネタは言わずもがな、展開力をフルで活かしたようなネタでした。オール巨人のコメント「前半ちょっとびっくりしました。このままいったら落ちるんちゃうかないうくらい。後半は盛り上げたのでさすがにうまい」がそれを表しています。このような後半で展開していくネタは、「入り方」を重視するオール巨人には刺さりにくかったのだと思われます。

また、オール巨人は漫才らしさについても何度か言及しています。その点、とろサーモンは、今田耕司が言ったように、「どこまでがネタなのか、あれはアドリブなのかと思わせるようなネタ」でした。また、終わる間際に「続行!」「継続!」と漫才のセオリーを崩すような展開も斬新さを感じさせます。この良い意味で漫才らしからぬ新規性のあるスタイルは、オール巨人よりも、上沼恵美子、渡辺正行、春風亭小朝の好みだったということでしょう。

和牛についても、松本人志が「意外と新しい試みをやっていて感心した」と評していることからも、新規性のあるスタイルだったと言えます。

まとめると、第二成分「好み」については、上に行くほど「入り方」「漫才らしさ」に対して、下に行くほど「展開力」「新規性」に対して高評価されているようです。

ジャルジャルに関しては、どちらかというと「新規性」の高い漫才だと思いますが、今回は「展開力」が認められず、惜しくも最終決戦進出ならず、という結果になったと言えそうです。

今回は、「展開力」「新規性」を重視する審査員が多かったため、ミキ、和牛、とろサーモンが最終決戦に進みましたが、もしオール巨人のように「入り方」「漫才らしさ」に重きを置く審査員が多ければ、結果は違ったかもしれませんね。

まとめ

漫才をこのように分析することは野暮なのではないかという気持ちもありましたが、ツイートを分析した結果、視聴者がどのように感じていたのかを浮き彫りにできて良かったのではないかと思います。特に、ゆにばーす、さや香が高評価されていたのは、こうしてデータを読み解かなければ気づかなかったかもしれません。また、審査員の好みを採点結果とコメントから分析しました。より多くの評価をベースに分析できればもっと精度の高い洞察が得られるでしょうが、なかなか納得感のあるマッピングができたと感じます。

長々と書いてきましたが、今回の分析はこの辺でやめさしてもらいます。どうも、ありがとうございました。