スマートフォンでの音楽再生をよりよい音で楽しもうというこの連載。今回、ピックアップするのは「無理ではないけどちょっと贅沢なお値段」で満足度の高い「ヘッドホン」だ。

これまでイヤホンを中心にお伝えしてきた本連載ではあるが、音を楽しむうえで比較的手ごろなのはヘッドホンも同じ。ヘッドホンの有利な点をあげるとすれば、一般的に振動板が大きい分、音質を向上させやすいということだ。しかし、持ち運びを考えたときの携帯性、装着時の着け心地、音漏れや遮音性の高さなど総合的に考えれば一長一短があり、イヤホンヘッドホンどちらを選ぶかは好みが分かれやすい。

イヤホンは音が頭の中に響く感じは強いけど、それを生々しさという長所に感じる方もいる。ヘッドホンは大きくて目立つが、だからこそファッションアピールにしやすいという考え方もある。自分がピンとくるほうを選べばOKだし、気分や季節によって使い分けてもよい。今さらりと出した「季節」という要素も大切なポイントだ。たとえば「ヘッドホンは夏は耳周りが熱くて冬は耳周りが暖かい」。今このタイミングで購入する場合でもそこは考慮しておくべき。ほかにもたとえばカラバリからどれを選ぶかを考える際、「ヘッドホンを外で使う機会が多いのは夏より冬かな」と思うなら、冬の装いに合いそうな色を選んでおく。そんな想像力を働かせてほしい。

では、今回ピックアップした製品を紹介していこう。屋外利用を想定して周囲への音漏れが少ない「密閉型」を中心に、価格帯は「これはよい音!」と思わせてくれる製品が特に集まる2〜3万円クラスを主に選んだ。ちなみに、価格.comでもこの価格帯の製品は人気ランキングの上位に集まりやすい。

ソニー「MDR-100A(h.ear on)」価格.com最安価格:19,480円●Fischer Audio「Con Amore」価格.com最安価格:登録なし●AKG「K550MKII」価格.com最安価格:23,976円●MASTER&DYNAMIC「MH40」価格.com最安価格:46,800円(※価格はすべて税込。2016年6月20日時点)

5Hz〜60kHzまでの幅広い再生能力! ベースが素直に抜けるのでボーカルの通りもよい
ソニー「MDR-100A」価格.com最安価格:19,480円

ソニーが提案する新時代のスタンダードヘッドホン。角や凹凸を目立たせないラウンド&フラットなフォルムに、本体はシングルカラー仕上げ。写真のビリジアンブルーほか、合計5色のポップなカラバリを用意する。と書くと派手系と思われたかもしれないが、実物の色合いや仕上げにはシックさやあたたかみもある。春夏でも暗すぎず秋冬でも明るすぎずの絶妙さだ。標準ケーブルのほか、スマートフォン向けのリモコン付きケーブル、キャリングポーチもそれぞれのカラーに合わせてある。

音質技術としては、振動板のチタンコーティングなどによって5Hz〜60kHzという超低音から超高音までの幅広い再生能力を確保。近年のソニーヘッドホンの低音再生を支える「ビートレスポンスコントロール」も搭載。「立体縫製イヤーパッド」などによる快適な装着感や折りたたみ時のコンパクトさも、実用面での大きなポイントだ。

ソニー「MDR-100A(h.ear on)」。近年のソニーヘッドホンとは思えない形状と色合いがユニークだ

音の印象は…現代的な良バランス!幅広い帯域を凹凸なく再現。それでいてエレクトリックベースの弾力のある太さやバスドラムの大きな胴の響きといった、低音域のポイントは絶妙に小さじ1杯程度強めて印象づけてくれる。

高域側ではシンバルの薄刃で透明感のあるシャープさに注目。ボーカルもシャープだが嫌な刺さり方はしない。超高域までのスペックを確保したおかげか、「超」が付かない高域部分で無理がないのだ。

全体にちょいドライで爽快な音抜けもポイント。おかげで密室感のある音作りのクラブ系サウンドをこもらせすぎない、ベースが強めにミックスされているポップスでも、ベースが素直に抜けるのでボーカルの邪魔をしない、といった特徴を得ている。低音が欲しい人を満足させつつほかの要素を重視する人にも不満は感じさせない。これぞ現代的な良バランス!

エレクトリックでもアコースティックでも、シンプルな編成との相性がよい
Fischer Audio「Con Amore」価格.com最安価格:登録なし

日本国内への本格展開は比較的最近、しかもオーディオの印象の薄いロシアから上陸してきたメーカーのヘッドホンだ。ロシア製という時点でインパクトも十分だが、見ての通りのウッドハウジングでも主張してくる。超薄型振動板を使用した50mm口径ドライバーは、最近のマイナーチェンジで素材変更による耐久性向上が行われたとのこと。

ハウジングは前述のように木製で樹種は花梨(楽器材「パドゥク」の近縁種。果実が食されるカリン=榠樝とは別種)。木琴に用いられるほどの音響特性や頑強さ、赤茶色の美しい色合いを備える。

大柄な部類だが意外と重くはなく、装着感も快適。調整不要でフィットするヘッドバンドや、肌触りのよいイヤーパッドのおかげだ。スマートフォン向けのリモコン付きケーブルも付属する。

Fischer Audio「Con Amore」。赤茶色の美しい色合いが特徴的な木製のハウジング。調整不要でフィットするヘッドバンドや肌触りのいいパッドによって、着け心地も快適だ

音の印象は…ウッディな抜けっぷり!ウッディ=やわらかな…ではない。花梨は硬質な材であり、そのものをタッピングすると「カン」とか「コン」のような抜けのよい音がする。このヘッドホンで聴く、特にドラムスやアコースティックギターなどの音抜けの感触は、この木材ならではの硬質感を思い起こさせる。

ただ、音抜けがいい代わりに中低域の密度感は控えめなので、重厚さが欲しい場合は向かない気がする。しかしエレクトリックでもアコースティックでも、シンプルな編成で音数を詰め込んでいないサウンドとの相性は実によい。たとえばロックだと、現代的なラウドロックでは重み不足だが、ジミ・ヘンドリックスが活躍したあの時期のロックを聴くと気持ちよい。

今時のこの価格帯として納得できるサウンドクオリティを備え、そのうえで出自の個性と音の個性を備えているという、なかなかの秀作だ。

音色にも帯域にも癖がないフラット&ワイドな大型ヘッドホン
AKG「K550MKII」価格.com最安価格:23,976円

名門ブランドAKGの名機「K550」の生産中止からほとんど間をあけずに後継モデル「MKII」が登場。人気と評価の高さに応えての復活だ。

実はMKIIと言っても実質的には初代「K550」をそのまま継承する製品だ。復活のために生産ラインを新規で立ち上げ直しており、仕様に変更はないがまったく同じ工程で作られたものでもないので、「MKII」としたとのこと。つまりおおよそ「K550」そのものなので、評価の定まっているモデルとして安心して選べる。

大口径50mmドライバーユニットの性能を、ハウジング内の空気圧を最適化する「ベンチレーション・システム」や、低音再生能力を向上させる「インナー・バスレフ・エンクロージャ」といった技術で引き出す。ケーブルが直付けで交換不能というのは今どき珍しいが、これも初代から引き継がれた仕様だ。

AKGの名機「K550」の後継モデルとなる「K550MKII」。見た目通りの大型ヘッドホンだが、ヘッドバンドの調整メモリが12段階用意されているため、フィット感もいい

音の印象は…これぞフラット&ワイド!音色にも帯域にも癖がないのでどこがよいという説明はしにくいのが弱点とさえ言える。ただ、同じく良バランスの「MDR-100A」と比べてみると少し説明しやすくなる。

まず「MDR-100A」では小さじ一杯程度強められていた低音が、「K550MKII」ではもっとフラットであること。次に「MDR-100A」はドライな感触だが、「K550MKII」では湿度感のあるものになっていることだ。湿度感についてはたとえば、女性ボーカルの声を少ししっとりさせてくれるのが「K550MKII」の特徴だ。ジャズの女性ボーカルがお好きな方などには特にハマる気がする。

ただし、組み合わせる再生システムによっては実力を発揮できない場合も…という手強さもある。以前に紹介した「ポタアン」などでヘッドホンを駆動するアンプのパワーを高めるなど、システム全体の強化も視野に入れておこう。

天然皮革と金属を多用した上質なデザイン! グルーヴの表現が見事
MASTER&DYNAMIC「MH40」価格.com最安価格:46,800円

今回紹介する中でもっとも高価。それでも紹介しておきたくなるほど魅力的なアイテムだ。音響技術の面は強くはアピールされていないが、後述のように、実際に聴いてみればそのサウンドクオリティもこの価格帯では文句なしに納得のレベルである。

デザインも圧倒的によい。ヘッドバンドとハウジングを覆うのはプレミアムなヘビーグレインカウハイド、上質な牛革だ。イヤーパッドはラムスキンでやわらかく肌触りも心地よい。金属部分はアルミとステンレスでそれぞれの素材の魅力を引き出すように仕上げられている。カラーバリエーションも写真の「シルバー/ネイビー」のほか、「ガンメタル/ブラック」や「シルバー/ブラウン」など5色用意されており、どれもかっこいい。金属を多用しているので重量は重めだが、ヘッドバンドの幅など全体のバランスやイヤーパッドの快適さで装着感も良好。ケーブルは着脱式で、左右どちらのハウジングにも接続できるのが面白い。

MASTER&DYNAMIC「MH40」の「シルバー/ネイビー」モデル。ヘッドバンドとハウジングを覆うのはプレミアムなヘビーグレインカウハイド。イヤーパッドにはやわらかく肌触りも心地よいラムスキンが使われている

音の印象は…ルーツから最先端まで対応!中低域、ベースやドラムスの肉感のある厚みがまず印象的。ゴツゴツはしておらず良質な筋肉のようにしなやか、言い換えれば楽器的というか音楽的な中低音だ。ソウルだとかグルーヴだとかの表現は特に見事。ソウルミュージックそのものに限らずその影響を受けている近年のポップス全般、特にベースが活躍する曲とのマッチングが実によい。

高域側ではアコースティックギターの輝きやシンバルのシャープさも十分に出しつつも女性ボーカルは尖らせない、と言うか、むしろ少しほぐしてくれるのが不思議でいて心地よい。また音場が左右に特に広いタイプではないのにドラムスの響きなどは豊かに届いてくるのも同じく、不思議でいて心地よい。この金額を用意できる方には自信を持っておすすめできる逸品だ。

というわけで、今回は2万から5万円で買えるハイエンドなヘッドホンを紹介させていただいた。高額ではあるが乱暴に扱わなければ何年も楽しめるアイテムなので、ここでピックアップしたものに限らず幅広く検討して、長い目で満足できそうなモデルを探し出してほしい。


>> オーディオライター高橋敦が選んだ2万〜5万円の注目ヘッドホン4選 の元記事はこちら