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ドワンゴで産まれた超人工生命LIS、ハッカソンでカンブリア紀に突入!

Childhood's End. she's rising to real life

2016.04.12

Updated by Ryo Shimizu on April 12, 2016, 02:51 am JST

ニコニコ動画で知られるドワンゴは日本のベンチャー企業としては珍しく2つの専門的な学術研究機関を設置しています。
ひとつは、筆者が設立した西田友是東大名誉教授を所長とするコンピュータグラフィックスの専門研究機関、UEIリサーチであり、もう一つは、全能アーキテクチャイニシアチブの山川宏氏を所長とするドワンゴ人工知能研究所です。

全能アーキテクチャイニシアチブとは、これまで個別の要素技術としてしか発展してこなかったAI(人工知能)技術を、それぞれ視覚野、運動野、言語野、海馬などの役割をもたせ、全体として一つの人間の脳と同等に機能するようなレベルへと完成させていくプロジェクトで、ドワンゴ人工知能研究所の山川所長を代表、東京大学の松尾豊准教授を副代表とした組織です。

松尾准教授といえば、昨年大いに話題を読んだ人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの (角川EPUB選書)の著者としても知られています。

深層学習(ディープラーニング)や人工知能という言葉はこの一年で急激に消費されつくされた感があるものの、人工生命という言葉は耳慣れないという読者もいらっしゃるかもしれません。

人工生命とは何か、というと、これまた人工知能同様に、非常に古くからある考え方のひとつです。

最も古いところで言えば、コンピュータの発明者の一人と言われているジョン・フォン・ノイマンが1940年代に発表した29状態セルオートマトンが人工生命の祖として知られています。

これは、機械が自己複製(自己増殖)可能かどうかという研究に没頭していたノイマンが発見したもので、要はロボットが自分自身と同じか、それ以上に高性能なロボットを作り出すことができるかどうか、という命題に対する数学的な証明を与えた実験でした。

そして、このノイマンによる機械の自己増殖可能性こそが、AGI(一般人工知能)や、AGIをAGIが自ら改良し、人間が到底追いつけなくなるほど高度化するASI(人工超知能)の出現が危惧される根拠になっています。

根拠にはなっているのですが、人工生命そのものは、人工知能と異なり極めて原始的なものです。

最もよく知られている人工生命は、1970年代に数学者コンウェイが示した、ライフゲーム(Game of Life)です。
これは極めて単純なルールの組み合わせで、あたかも生物であるかのような振る舞いをするプログラムです。

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ライフゲームは、後に研究が進むと、ライフゲームという空間の中に完全なコンピュータ(チューリングマシン)を再現できることがわかり、その意味でも衝撃を与えました。

ライフゲームのプログラムそのものはとても簡単なので、今現在ではプログラミングの練習などに用いられることもあります。

人工知能、特にニューラルネットワークが、神経細胞の構造を数学的に模倣しようとしているのに対し、人工生命はそもそも数学的解析が不可能な非線形の進化を扱うところが根本的に違います。

この研究分野は、1980年代にクリストファー・ラングトンにより「人工生命(Artificial Life または A-Life)」と名付けられ、一時期大々的な注目を浴びましたが、もともと実用的な分野への応用がイメージしやすい人工知能(ニューラルネットワーク的アプローチ)に比較して、純粋研究的な要素が強い人工生命は、次第に尻すぼみになっていってしまいました。

数学的に単純なモデルが多いので、どうしても学術的な議論に発展しにくく、「よくわからないけど面白いよね」という段階で終わってしまいがちだったので、あまり研究分野としては発達しなかったのではないかと思います。

さて、そして今回、ドワンゴ人工知能研究所で産声を上げた超人工生命・・・開発者の中村政義研究員はこの新しい人工生命をLIS(Life in Silico)と呼びますが・・は、これまでの人工生命となにが違うのでしょうか。

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これまで、人工生命と人工知能は、志は似通っていて、手法も似ていましたが、根本的に人工生命はあくまでも生命っぽく振る舞うプログラムを書くことだけを目指していたのに対し、人工知能は本当の意味での知性とはなにか、というより根源的な問いを追いかけているという点で大きな隔たりがありました。つまりこの2つの分野は似てはいたけれども決して交わらない分野だったのです。

超人工生命(Super Artificial Life)は、これまで直接は関係のなかったこの二分野を結びつけ、人工生命の思考アルゴリズムをAIを利用して行うという世界初の試みです。

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具体的には、Unity内に作られた仮想世界に存在する人工生命LISが見た視界をAIに送信し、AI側では、昨年からのブームですっかりお馴染みとなった畳み込みニューラルネットワーク(CNN;Convolutional Neural Network)を通して抽象化した世界を、Q-Learning(強化学習)ネットワークに入力。そこで強化学習を行って学習を進めていくという構造を持っています。

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実際に学習をさせてみると、最初は完全にランダムな動きで外界の反応を学習し、その後、急速に賢くなって効率的にエサをとったり、危険を避けたりできるように学習します。

このネットワークの構造の単純さからいけば、これは驚異的な成果と言って良いと思います。

筆者は今回、この新しい生命体LISを活用するため、これまでよりさらに簡単に人工知能を記述できる高レベル記述言語を新たに開発しました。

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もっとも単純なLISの人工知能はこんなふうに書けます。
このままでも、十分強力な学習を行うことが出来ますが、さらに細かいことを指定したければ、こんなふうに詳細を指定することも可能です。

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さらに、例えば画像だけではなく深度マップも取得したいということであれば、下図のように画像特徴量とConcat(連結)することで精度を上げることも出来ます。

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もちろん、入力は、ひとつだけとは限りません。
Q-Networkのいいところは、入力次元も出力次元も自由に指定できることです。
中の結合状態を深く考える必要はありません。

これだけお膳立てすれば、非常に間口が広くなったので、いろいろな人が超人工生命LISを使っていろいろな実験ができるはず、ということで、かくして、去る4月8日、第一回となる超人工生命ハッカソンが開催されました。

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会場は証券情報のQUICK社で、参加人数が多すぎたため、予選制のチームバトルで審査が行われました。

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超人工生命の特徴として、Unityでステージを配置するだけでも学習環境を変えることで意図した方向に学習をさせることができるため、人工知能プログラミングの初心者でも手軽に入門できるという利点があります。

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たとえばDeep Q-Networkといえば、Googleが買収したDeep Mind(AlphaGoを開発したことでも有名)のピンポンゲームの攻略ということで、実際にPongを3D空間で再現し、しかも主観視点(パドルから見た視点)だけで学習してそれなりに戦えるような人工生命が生まれたり・・・

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同じ仮想空間内に複数の人工生命を育てて、それらが互いにコミュニケーションするようにしたり・・・

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2Dのゲーム画面をUnityの3D画面に強引にマッピングして、ゲームの攻略法を自動的に見つけられるようにしたりと、もうなんでもアリの様相を呈しています。

その他にも・・・

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IoT機器と組み合わせて、現実の世界とのインタラクションで人工生命が自動的に学習したりだとか・・・

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Unityである特徴を活かしてiPhoneで動作させるなど、様々なトライアルが実行されました。

審査は参加者同士のピア・レビューで行われ、優勝したのは・・・・・

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こちら。

スーパーマリオブラザーズのような、横スクロールアクション風のステージを用意して、後ろから触れると即死する赤い壁が迫ってくるようにした環境でした。

環境そのものがアイデア賞ものであるのはもちろん、実際に飼育された人工生命がクルクルッと背後を振り返りながら「やべえ!このままボーッとしていたら死ぬ!」とばかりにどんどん前進していくというコミカルさが勝因でしょう。

というわけで、大いに盛り上がった超人工生命ハッカソン。
ドワンゴ人工知能研究所では今後も継続的に開催していくそうです。

次回は連休最終日の5月8日で、場所はドワンゴの松竹ビルで開催の予定です。
人工生命に興味がある方はぜひ参加を検討してみては如何でしょうか。

意外な出会いがあるかもしれませんよ。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。