動物と一緒にいると、発見があり、癒される。これは動物の魅力のひとつでもある。そんな機会を増やすために、幼稚園や学校、デパートなどへ動物を連れて行き、自由にふれあえる場所と時間を提供しているのが、島田動物舎の「移動動物園」だ。園長の島田直明さんの言葉に耳を傾けてみると、動物と接する態度は人間のコミュニケーションの基礎であることが見えてきた。

島田動物舎 園長 島田直明さん

NaoakiShimada

1962年、東京都生まれ。東武動物公園(埼玉県)入社後、動物の調教技術を独学で学び、同園初の動物調教師として、オットセイのショーや動物パレードを実施。2000年を機に独立、有限会社島田動物舎を設立。同社がプロデュースする動物たちとのふれあいの空間と時間を「ZOOKISS」(ズーキス)と総称し、各種アトラクションや豊富なオプションを展開。飼育・調教の知識と技術、徹底した衛生管理、ユニット式の設営により、動物たちとふれあうことのできる「移動動物園」を可能にした。


動物とふれあうことで
子供には『気づき』が生まれ、
大人には『癒し』を
提供できる。

「移動動物園」の誕生

タカやフクロウは「猛禽フライトショー」で活躍する。「鳥は飛んでいるところを誰かに見せたい動物。飛ばすリスクは大きいが、私はどこへ行っても飛んでいる姿を観客に見せてあげたい」と島田さん。タカは島田さんの手の動きに注目していた。 ウサギは幼稚園で大人気の「アンゴラ」。文部科学省の指導要項ではウサギの飼育を奨励しているが、ウサギの飼育は意外に難しい。「先生がウサギの雄と雌の区別がつかない。子供がどんどん生まれてもどうしていいのかわからない。だからウサギの子がどんどん死んでしまうということが現実として起きています」と島田さん。  その段階で島田さんのところに連絡が入るケースが多いという。しかし、飼育や飼育指導まで予算が出ないので、島田さんは「ウサギの飼い方を紹介するビデオを学校向けに作ろうと思っている」とのこと。

「移動動物園」を営む事業は、島田さんが東武動物公園に勤めている頃に思い浮かんだという。まず起業の動機を尋ねた。

「私は調教師として動物を園内外のイベントに連れて行く担当でした。園外の動物イベントをきちんとした形で打ち出すよう会社に提案しましたが、当時すでにバブルが弾けていたこともあり、社内ではむしろ『動物は金を稼がないお荷物だ』という風潮でした。動物園はちゃんとしたビジネスになる。そのことを証明したいと思ったのが、独立の要因のひとつです」

「移動動物園」という発想は、家族の何気ないひと言に触発されて生まれた。

「女房と子供はあまり動物園に行きません。その理由は『子供の着替えや弁当、離乳食やミルクの瓶を持っていかなくちゃいけないと考えたら、準備するのも行くのも帰って来てからも大変』ということです。私からすれば、毎日お客さんが来ているので、一人あたりの頻度が高いように思っていましたが、実は一般の人は幼稚園で1回、小学校で1回、恋人ができて1回、子供が生まれて1回、孫が生まれて1回。つまり一生のうち5回くらいしか動物園に足を運ばないのではないか、動物と接するチャンスは意外に少ないのではないかと考えました。

それを埋めているのがテレビの動物番組なのでしょう。だったら面倒な準備などなく、いきなり街の商店街に動物が登場したり、幼稚園に現れたりすれば楽しいのではないか。動物とのふれあいがあり、その時間が楽しければ、存分に喜んでもらえるのではないか、そのように考えました」

島田さんは動物を外へ連れて行くために厳しいルールを設けている。これが「移動動物園」の基本的な考え方でもある。

「動物園に勤めている時は、動物が汚くて臭いを発することも、触るとベタベタしていて脂がつくことも、それが動物本来の姿だから子供たちの勉強になると思っていました。でも、実際に移動して行くとなると、話は違います。

ホームページ

http://www.zookiss.com/

幼稚園内に入っていく場合、設営の現場もさわる動物も常に清潔でなければなりません。皆様の生活の場に出向いて行くわけですから、子供たちやお母さんたちに安心して喜ばれる環境を提供する必要があります。例えば犬を連れて行くなら、顔をうずめても『うん、いい匂い』という子供の反応があるような室内犬、ヒツジなら『これがセーターになるんだよ』と言って素直に納得できるようなフワフワのヒツジじゃないと受け入れられません。『動物なんだから汚くて当然』という甘えを持たず、きれいな状態に仕上げて持って行こうと決めて、このビジネスを始めました」

動物を通して感動を提供

動物を運ぶ際に使った専用のコンテナ。「この仕事の難しさのひとつは、いかに動物に負担をかけずに輸送するかということ」と話す島田さん。 ポニーは乗馬体験ができる。島田さんは「ポニーや馬は人間の態度を見ます。『うわーっ、馬だ』と駆け寄ったら、馬は『なんか変な人が来たから逃げよう』となります。それは普段と違う何かに反応しないと生きてこられなかったから」と説明する。 ミニ豚とヒツジとアヒルは一緒に暮らしている。この動物たちもハードルを飛んだり、ぐるぐるまわったりと芸をする。

素人にわかりにくいのが、飼育と調教のコツだ。「移動動物園」の場合、動物が人間のいる日常の空間へ移動してくるのだから、さらに難易度は高いだろう。

「柵の中にいる動物が人間の日常の場所へ出向いて行けるのは、動物を慣らす技術があって初めてできること。動物たちはたえず人がいる環境で暮らし、その中で安心感を持って慣れていき、どこに行ってもスタッフが普段と同じ状況をつくり出します。こうした信頼関係を築くまでが大変です。時間をかければよいというものでもありません。それぞれの種類が持つ癖と個体特有の癖を把握したうえで、人前で芸を導き出すための方程式が必要です。『この動物はこのように仕上げたい。だから今これをする』といった、先を見越した飼育・調教をするのです」

飼育・調教が普段見ることのない舞台裏だとすれば、同社ホームページに掲載されている動物の種類や料金、イベントプランなどは、いわば表舞台だ。これを見ると、同社がイベント設営の側面を併せ持ったエンタテインメント提供企業であることがよくわかる。

「『移動動物園』は世の中にまだ浸透していないので、呼ぶ側には『いくらかかるのか?』『どんな種類の動物がいるのか?』などの不安や疑問があるでしょう。多少の距離を置いて、聞きたいことに素直に答えてあげることが、ウェブの利点です。その中でさらに興味を持ってくれたら、初めて会話が生まれるようになればよいのです。幸いなことにホームページを見て、全国から問い合わせが来るようになりました」

ところで、普段子供たちと接している島田さんには、気になる反応があるという。

「最近に始まったことではありませんが、動物が動くことに耐えられない子たちがいます。『触ってごらん』と促すと『うわーっ』と驚き、動物を持った手を離してしまい、『だって動くんだもん』と言うのです。私たちが子供の頃と現在の子供たちとがどう違うのかを考えます。昔は蛇もカエルもトンボも、どこにでもふんだんにいました。そんな環境にない現代社会で『動物を可愛がれ』と言われても、すぐに可愛がれるものではないのでしょう。生まれ育った環境が違うから表現方法も違う。そんな子供たちに対応できない大人が、『子供たちが危ない』と言ってしまっているのかもしれません。

重要なのは、生きているものと生き物ではないものは決定的に違うということです。例えばぬいぐるみや写真は後者です。また、どんなに野生や自然を唱えても、テレビの中に映し出されるものと現実とは違います。私が常に訴えかけているのは、生きた動物とふれあって楽しい体験をしてもらうこと。動物に触ることで、子供には『気づき』が生まれ、大人には『癒し』を提供できます。両者に共通して言えるのは、動物特有の感動があるということです」

動物と友達になる方法

島田さんが登場すると、小型の室内犬は島田さんに飛びついたり、尻尾をふったりして大はしゃぎ。 ミニ豚の「マサオくん」は人気者。芳賀さん(左)は「一緒に散歩するのも私とマサオくんの関係をつくるための調教」と話す。 フクロウは島田さんが声をかけると返事をする。「フクロウは意外に臆病で、木に化け、自分を小さく見せるために細くなる。そして隠れていてダメだと感じると、次に脅かしてみよう。脅かしてダメなら最後は逃げよう。3つのパターンを持っています」と島田さん。 島田さんは「単に動物好きだけでは務まらないが、楽しめないと長続きしない」と若いスタッフに語る。 敏感なトカゲやカメレオンを見る時は、正面から入り込んでいくと警戒されるので、斜めに構えるという。するとトカゲはやっと本音を出してくる。

島田さんは動物とふれあうきっかけは作るが、押しつけはしないという。まず興味を抱いてもらうことが先決だからだ。

「『触ってごらん』と促しても素直に応えられない子供には、少し間をおいてあげます。抱っこできなくてもいい。眺めているだけでもいい。慣れてきたら『指でちょこっと触ってごらん』とすすめ、それができたら『どんな感じがした?』と聞きます。すると『柔らかい』とか『硬い』とか反応が返ってきます。『そうだよ、おじさんはこの柔らかさが好きなんだ』とか『硬くておもしろいね』とか、共感を表します。つまり動物のおもしろさを感じてくれたらいいのです。押しつけでなく、まず興味を引っ張り出してあげることが大切なのです。

一方で動物愛護を声高に訴えるだけでは、その効果に疑問を感じます。例えば『尾瀬の自然を守ろう』と言っても、尾瀬で楽しい経験をした人にしか訴求できません。その点、動物を連れて行けば、子供は『動物園が来て、ヒゲのおじさんがイグアナを抱かせてくれた。こんなんだったんだ』と、イグアナのザラザラした感触を家族に伝えるでしょう。動物の触感や匂い、体温などが、楽しい思い出として体に残れば成功です。それがやがて動物を守ろうという気持ちを育む要因になるかもしれません。抱っこしようとしたら逃げたという体験も貴重です。そこで『生きているから逃げるんだよ。どうしたらおじさんみたいに動物と友達になれるのかな?』と尋ねることで、子供たちはさらに興味を抱いてくれるのです」

最後に「動物と友達になる方法」を島田さんに伝授してもらった。

「自分よりも大きなものが追いかけてきたら誰でも逃げますよね。だからまずそれをしないこと。動物は知らない人にいきなりなついたりしないので、追いかけないで待つことも大切です。小学校に入って隣の席の子と友達になりたいと思ったら、相手の様子を見て、『こんなことは好きかな、嫌いかな?』と想像しながらコンタクトを取るでしょう。

動物もそれと同じ。相手の気持ちを考えて行動することが大切です。動物とつきあうのは人間とつきあうのと同じレベルの話ですから、動物と上手につきあえる人は人間とも上手につきあっていけるでしょう。動物との豊かなふれあいを、いずれ友達や両親などとの関係性にフィードバックしてもらえたらいいなと思います」

島田さんは動物とのふれあいを語りながら、同時に人間同士のコミュニケーションと「動物(相手)から見た自分」という視点の大切さも話してくれた。島田さんの動物に向かう奥深いまなざしは、人間に対する目線と同じなのだろう。





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