1. 正確さ(アキュラシー=accuracy)

2. 迅速さ(スピード=speed)

3. 誠実さ(インテグリティ=integrity)

(「はじめに」より)

この3つが、自身の会社人としての行動の指針となってきたと記しているのは、『「すぐやる人」になれば仕事はすべてうまくいく』(金児昭著、あさ出版)の著者。信越化学工業で38年間にわたり、経理・財務の実務を担当してきたという人物です。

そんな経験からいえるのは、上記の3つが国・企業・家庭を運営していくうえで欠くことのできないものでもあるということ。

この三つは、個別に成り立っているわけではなくて、それぞれが互いに関連し合っています。正確にやろうとすれば迅速さや誠実さが必要となってくるし、迅速に行うにも、正確さや誠実さが伴わなければなりません。そして、誠実であろうとすれば、正確さや迅速さも自ずとついてくるはずなのです。(「はじめに」より)

だからこそ、そうすることによって自分も会社も、仕事も生活もうまくいくという考え方。第1章「すぐやる人の『すぐやるコツ』」から、いくつかの要点をピックアップしてみたいと思います。

「面倒くさい」と思ったときは、「しめた!」と考える

「仕事をすぐにやらない」「すぐできない」というようなことは、多かれ少なかれ誰にでもあるものですが、それは多くの場合、本人が「面倒くさい」と思っているから。そう指摘する著者自身も「ちょっと面倒くさいな」と思うことはあるそうですが、そんなときは「しめた!」と思うことにしているのだそうです。

それは、分析の材料がひとつできたということだから。といっても難しい話ではなく、「なぜ、その仕事が面倒だと感じるのか」という自分の気持ちを分解していくということ。すると、だいたい次のような要因が見えてくるのだとか。

1. ほかになにかやりたいことがあるから

2. やりたくないことに時間をとられるのが嫌だから

3. 自分がやらなくてもよいと思うから

4. やっても無駄だとわかっているから

5. 単調な仕事でとっつきにくいから

6. 気分が乗らないから

7. 自分が不得意なことだから

8. やっても誰も評価してくれないから

9. やっても楽しくないから

10. やっても誰も喜んでくれないから

(21ページより)

つまり、こうした分析が楽しくなるように、自分の気持ちを誘導していくということ。自分の気持ちを分析してみると、気分が楽になるのだそうです。そして、そこまで到達したら、次にすべきは、楽になった気持ちをより前向きに変えること。

面倒くさくてやりたくないことでも、いつかは必ずやらなければいけないもの。そこで著者は、「いつかは必ずやらなければならない」という言葉を、誰もいないところで声に出して10回叫んでみるのだとか。すると最初は嫌々でも、やがて「自分はいつか必ずこのことをやらなければならないんだ」と、自分で自分を納得させられる気持ちになってくるのだといいます。

いってみれば、面倒だと感じていた仕事に対し、自分の心のなかに責任感のようなものが芽生えてくるわけです。たとえ誰かに強制された仕事であっても、自分自身がやらなければならないということを自分で理解した状態になるということ。(20ページより)

喜んでくれる人、褒めてくれる人を見つけよう

とはいえ、どうしても自分を納得させられないようなときもあるでしょう。そんなときはストレスばかりがたまり、ますます面倒になってきますが、そのままの気持ちで仕事をしてもよい結果は得られません。そんな、どうしても面倒な気分から抜け出せないときにいちばんよい方法は、先の分析のなかの「4.やっても誰も評価してくれない」「10.やっても誰も喜んでくれない」の2つを解決することだといいます。

人は誰でも、他の人に期待されることを望んでいるもの。そして、どんな小さなことでも、よい仕事をしていれば、それを見ている人は必ずいるもの。よい仕事は、必ず評価されるということです。

もちろん逆もあるでしょう。自分に期待していない人から命令や指示を受け、「やっても、どうせまた文句をいわれる」「どうせ、たいして期待されていない」「あんなヤツのいうことなんか聞きたくない」などと思いながら仕事をしていたのでは、気分が悪いだけでなく、よい結果が出るはずもなく、悪循環に陥ってしまうことに。

そうならないためには、その気に入らない人が、「自分を結果として育ててくれているのだ」と思い込む訓練も必要。ひとつの「試練」「訓練」と考え、息抜きの時間を上手につくりながら、嫌な上司が去っていくのをひたすら待つわけです。(23ページより)

同時進行して頭を働かせる

仕事がすぐにできないとき、多くの人は「忙しいから」という理由を挙げるはず。では、「忙しい」とはどんな状態のことをいうのでしょうか? 著者の場合は、おおむね次の2つが挙げられるそうです。

1. とにかく忙しくて、追加される新しい仕事ができない状態

2. 時間的には多少の余裕があるが、次から次へと仕事が出てきて、せわしすぎる状態

(26ページより)

こうした状況のなかで「すぐにやる」ためには、時間を捻出して新しい仕事ができる状況に持っていくことが必要。そのためには、2つ以上のことを同時にこなす努力と工夫を重ねるべきだといいます。たとえば著者が日常生活のなかで行ってきた試みには、次のようなものがあるそうです。

・電車に乗りながら睡眠をとる

・電車のなかで原稿を書いたり、考えたりする

・トイレのなかでアイデアを見つける

・考えながらワープロを打つ

・歩きながら英語をしゃべる

・歯を磨きながら、朝のテレビのニュースを見る

(27ページより)

物理的に難しいという側面はあるものの、2つ以上のことに対して同時に「注意を配り」「頭を働かせる」ことは、訓練次第で上達が可能だといいます。むしろ、こうした力を鍛えることが、仕事を進めていくうえではとても重要なのだと著者。

一方には「それでは仕事に集中できないのでは?」という考え方もあり、たしかに集中力も必要。しかし、ひとつのことに集中しすぎると、他の重要な問題を見落とし、逆にとんでもないミスを犯すことも。よい仕事をするには、いつもまわりが見えていないといけないわけです。(26ページより)

ギリギリの仕事がミスを生む

・足下に重ねてある書類の山につまずきそうになる

・電話機の故障に気がつかず大切な情報を逃してしまう

・電車が事故で止まっていることを知らず、大事な約束に大幅な遅刻をしてしまう

・最新の法律を勉強することを怠っていたため、危うく違法行為を行いそうになる

・上司の考えを正確に把握していなかたために、逆のことを勧めてしまった

・十分な調査をせずに、思わずいいかげんな返事をしてしまい、それが尾を引いてしまう

(31ページより)

たとえばこのように、仕事の現場には大小さまざまな危険が転がっています。そして、こういう日々の仕事のなかでいつでも起こりそうな「危険」の積み重ねが、自分で感じているよりも、あとあとになって大きな支障をもたらすこともあるでしょう。

では、多くの危険を回避するいちばん簡単な方法とは? 著者はこの問いに対し、「ギリギリの仕事をしないこと」だと答えています。時間をかけて仕事をすればよいということではなく、早めに仕事を仕上げ、最後に余裕を残しておくということ。

仕事のどこかに余裕が持てないために起こる不都合は、どんなに優秀な人にでも必ずあるもの。だから、たとえば5日までにやるべきことは、必ず前日の4日までにきっちり終え、あとの1日に細部まで点検すること。

もちろん、すべての仕事に対して余裕を持てるとは限りませんが、普段から仕事をやりっぱなしにせず、見なおす癖がついている人は、どんなに時間がなくても無意識のうちに(完全であろうと、ラフであろうと)なんらかの見なおしを行っていて、その過程で重要なミスを見つけ出しているものだというのです。

1日早く、1時間早く、1分早く仕事を仕上げることは、つまずきのもととなる石ころや落とし穴を発見するための貴重な「保険」になるということ。(31ページより)


本書を読んで感じるのは、著者の生真面目さ、そして誠実さ。表面的な虚飾がないからこそ、忘れてはいけない本質について思い出させてくれるのです。ビジネスを円滑に気持ちよく進めるためにも、ぜひ読んでおきたいところです。

(印南敦史)