南極点のピアピア動画 [Kindle]

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  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • テック系の軽めオタクSF。深夜枠のオタクアニメにしたら面白そう。
    宇宙への進出の役目はマッド・サイエンティストから国家に移りさらにマッドな経営者に移った。単なる私企業だからその野望はいにしえのマッド・サイエンティストと同じ。なにか使命に駆られてというより、あれ?何か間違ってやらかしてしまいましたけど、広まってしまったのでデファクトでというノリが真実なのかも。2008年に開始された連作にもかかわらずAIには触れず、ボカロと動画配信プラットフォームを物語の中核にすえたのは意図的か?このあたりが時代を感じさせてしまうほどの変化の早さがおそろしい。
    日本からもこんなはちゃめちゃな開発者や企業がもっと出てきますように。社員から搾り取った金で宇宙に行ってきますとかいう単なる成金話はもういりませんから。

  • 大分昔に購入したのに、置きっ放しにしていたのだった。重厚にSFしている、というようなコメントは見た記憶がある。かなり重厚にSFしていた。

    ここで扱われているコンテンツは、2017年時点でオペラやコンサート、CM等と想像以上に拡がりつつも、最も胸熱な時期は過ぎたものである。だから作中で「めると」の話で盛り上がるおっさんたちの話が分かる。現実として、媒体は客層の代謝を果たしきれないでいるようにも思う。でも今も一途に彼女を追いかける人がいるんだろう。

    楽観的で、明るくて、わくわくする感じだ。自分が体験したインターネットの一時期を思い出すような作品。

  • ## ■全般感想

    ボーカロイドが題材とのことで、ネットのB級アイドル文化というか、vTuber文化的なものを期待したが、そうではなくDIY系の話で、ちょっと期待外れだった。書かれたのも2012年の、ニコ動やYoutuberが流行り始めたころで、描写も2ちゃんねる的な色が濃く、いま読むと微妙に古いというか、少なくともコロナ禍以降のネット文化を期待するとコレジャナイ感がすごい。よく言えば古き良き時代、悪く言えばダサい。要するに賞味期限切れのようにおもった。

    あとがきを読むと著者(野尻抱介)はニコ動黎明期にずいぶん尽力したようだが、その点でもやはり、2024年現在における成熟した動画文化「ではなく」、2ちゃんねるの延長だった頃の文化が描かれているのだと思う。

    とはいえ、「ニコニコ技術部」とか、ボーカロイドとか、2ちゃんねるではなくニコ動が新たに興した当時における最先端の流行は捉えているように思う。

    津田大介が識者扱いで出てきたことには苦笑。


    ## ■あらすじ

    【南極点のピアピア動画】
    彗星が月面の衝突した世界。
    エキセントリックな彼女に出ていかれた主人公は、曲をピアピア動画に上げつつ彼女を待つ。オープンサイエンスプロジェクトにより、彗星衝突の影響で南極点から上昇流が生じることを知った主人公は、友人が構築した自律式の工場を使って、XプライズとホワイトナイトIIIによる宇宙プロジェクトに応募する。南極で彼女が到着し、二人は宇宙に行く。

    【コンビニエンスなピアピア動画】
    コンビニ店員の主人公は、ピアピア技術部の人物から、インターホン音楽のアレンジ目的でインターホンを調べさせてほしいと言われる。その後、初音ミク(的なキャラ)のマーケティングキャンペーンが成功する。
    真空式の虫取り機で蜘蛛が進化しているのを発見し、それを小型衛星で宇宙空間に持ち出し、クモ糸による軌道エレベーターの構築が開始される。そこに宇宙コンビニを出そうと言う。

    【歌う潜水艦とピアピア動画】
    潜水艦を用いたクジラとの交流プロジェクトに、退役した潜水艦が用いられる。潜水艦は初音ミク(的なキャラクター)の音声でクジラと交流。するとクジラに導かれて未知の信号を受信。それは7000万年前に地球に到達した生還文明の探査体だった。

    【星間文明とピアピア動画】
    生還文明の探査体は潜水艦から上陸すると、ピアピア動画の本社を通じ、コンビニの流通網を経て福生態を日本中に拡散させる。その後、軌道エレベーターを介して宇宙に行く。

    ## ■ロボコンモノ・鳥人間モノについて

    「南極点のピアピア動画」。
    ロボコンモノ、鳥人間モノとでも呼ぶか。シミュレーションの細かなディテールが大事。組み立てられた計画の実行を丁寧に描くだけで面白い。そのおもしろさを衒わずに描くことは大事。逆に言えば、机上での思考実験を、部品からテストから場所から輸送手段からタイムラインから、事細かに、現実の計画と同じように考えていかなければならない。

    とはいえ目的がないと読者はついてこないので、そこで「彼女を振り向かせるため」はなるほど。ベタだが王道。


    ## ■ネット文化の描写のコレジャナイ感というかダサさ

    ピアピア動画はニコ動とかと思うが、規模を見誤っている。あるいは2013年時点の感覚がいまとはちがうことがわかりおもしろい。いまなら、ジャンルに動画をアップしたところで見てもらえないし(2ちゃんねる的な感覚で書かれたのかも)、宇宙男の企画で投げ銭400万円はしょぼく感じる。

    宣伝描写も淡々としすぎて、インフルエンサーマーケティングや、SNSのキャンペーンに慣れた現在からすると、あまりにしょぼくてビジネス舐めてるのか、という気持ちにはなる。

    そして、ネットの声の描写がとにかくダサい。2ちゃんねるの書き込みから毒を抜いたような、コレジャナイ感。著者の背景を考えれば、これは知識不足・経験不足ではなく、単に描写力不足だろう。


    ## ■リアリティについて

    ディテールはよくできていたが、宇宙機開発とか潜水艦のところとか、認証なりテストなりを飛ばしすぎてて微妙に思えた。分散的なアマチュア開発の様子はとてもよく描かれていたが、実用となるとテストは品質にものすごく時間がかかること、そこにリアリティがあることが飛ばされていて残念。作劇的には仕方ないのかもしれないけれど。


    ## ■その他

    インターネット文化と星間文明による監視との対比はなるほどと思った。
    「自律的に自己増殖するロボット」は第一話にあたる「南極点のピアピア動画」でも描かれていて、これは伏線だったというよりは、元はこちらが進化する構想だったのではないか。それから2~3年後に地球外生命が出てくるが、これはプロットを途中変更したのではないかと思われる。

    いずれにせよ、自己増殖するロボット、あるいは初音ミクのハードウェア版、がきっと本作の著者におけるSoWだったのだと予想する。

  • タイトルがオッパッピーな感じなので、ドキドキだった。が、読んでみたら、面白い、表面的には軟弱なのだが、すごい骨太で良い。それに明るい、すごくハッピー。村上隆氏の絵を見ているようだ。確かな技術に裏打ちされたポップなアートみたいな。

  • ネットの陽の側面を見せてくれる清々しい作品。全体を通じて前向きなのは少し前に書かれたためか。異星人とのファーストコンタクトは唐突だが引き込まれた。後半がややご都合主義だが、これはこれで良いと思う。

  • Project DIVA Fプレイ中のサブテキストとして。いろいろ思うところある、というかセンス的にどうしても許容できない点はあるものの、第四部はなかなか面白かった。

  • ひたすら初音ミク推しの物語。
    この作品を読んで思ったけど、自分はSF向いてないかもしれない。
    鯨の話は結構面白かったけど、そのあと宇宙人が出てきてかなり萎えた。
    やっぱり登場人物に感情がないのがツラい。

  • 世の中の役にたたなさそうなことを全力でやり遂げる。不真面目な感じはするが、それを有人宇宙飛行から宇宙エレベーター、そして星間生命体とのファーストコンタクトまで、SFの世界で真面目に取り組んだのが本作品である。馬鹿馬鹿しい突飛な物語である。しかし、冷静に考えると、どれも現実に起こりそうな世界を物語っているようにも感じる。登場人物や世界の空気が多少うまく行きすぎな感じはあるものの、そんな世界の方が楽しいよなとも思わせてくれる。読んでいて気分が楽になる作品だ。とはいえ、物語の舞台の背景を知らない人は、何が面白いのか理解できない人もいるかもしれない。そこが読者を選んでしまうのではないかと感じた。まあでも、初音ミクとニコニコ動画を名前だけでも知っている人なら楽しめると思う。

  • 名前からわかるとおり、近未来のニコニコ動画っぽいものが主題のお話。
    ニコニコ動画のコミュニティがこんな風に発展していったら良いな、と思わせる話から、気がつくと宇宙人とのファーストコンタクトの話になっているストーリーテリングはさすがSF作家野尻抱介と唸らせる。

    SFなので難しい単語と概念がちょこちょこ出てくるが、その辺は何となく読んでしまっても十分に楽しめる。表紙にビビッと来た人はジャケ買いしてもOKでしょう。

    僕もあーや欲しいですw

  • ニコニコ動画と初音ミクで、何の違和感もなしにアーサー・C・クラーク展開が
    できるようになるとは、何とも恐ろしい時代である。
    ある意味「ふわふわの泉」まんまな展開でもあるわけで、真に恐ろしいのは
    尻P先生のビジョンとブレなさかもしれない。
    あーやさんマジ霧子さんセカンド。
    しかし、南極点書いた段階で星間文明まで視野に入っていたのだろうか・・・

    インターネット業界に属する身として「ピアピア動画」というネーミングを
    思いつけなかったことに忸怩たる物があります。

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