中国、内需減速で対ASEAN戦略揺らぐ 反発に苦慮

【クアラルンプール=土居倫之】中国の対東南アジア諸国連合(ASEAN)戦略が揺らいでいる。巨大内需を武器に発言力を強めてきたが、経済減速でASEANからの輸入が減り、逆に輸出が増加。立場が入れ替わって「外交カード」の威力に陰りが見えてきたからだ。マレーシアで開催中のASEAN地域フォーラム(ARF)関連会合では各国から不満が噴出し、南シナ海の埋め立て問題を巡る反発の封じ込めに苦慮している。
中国の王毅外相は5日の記者会見で、南シナ海問題について、国際法に基づき領有権紛争の解決を目指す「行動規範」協議の加速や10月の国防相会議の開催など10項目の協力を提案したと明らかにした。同席したタイのタナサック副首相兼外相も歓迎の意を表明した。
ただ会見に先立つ中国・ASEAN外相会談はASEAN側の不満が相次ぎ、当初1時間の予定が1時間半に延びた。
関係者によると、これまで南シナ海問題で中立的だったインドネシアが、議論が進まない「行動規範」について「期限を設けるべきだ」と提案した。親中派の筆頭だったカンボジアも行動規範について言及したようだ。
これに対して王氏は、4月のASEAN首脳会議後の共同声明で、南シナ海の埋め立てが「信頼を損なう」と暗に中国を非難したことに「不快だ」と述べたという。

背景には、中国が南シナ海の実効支配が着々と進むことへの危機感に加え、両者の貿易構造に変化がみられるからだ。
中国のASEANからの1~6月の輸入額は前年同期に比べて8%減った。逆に鉄鋼輸出などASEAN向け輸出額は同10%近く伸びた。中国国内の供給過剰を背景に、中国の対ASEANの貿易収支は黒字額が急増。買い手から売り手に転じつつある。
一方で米国はASEAN支援の姿勢を強める。フィリピンのデルロサリオ外相は4日、「南シナ海での埋め立てや建設、挑発の3つの行動を中止するよう米国が提案する」と明らかにした。
AFP通信によると、ケリー米国務長官は5日の王氏との会談で、南シナ海での埋め立てなど「疑わしい行動を停止するよう」伝えた。中国外務省はケリー氏が「米国は具体的な争いには介入しないと述べた」とする。
王氏は4日、ラオスやカンボジアなど中国と関係の深い5カ国と相次ぎ会談し、インフラ建設での協力を伝えた。ただ6日に発表されるASEAN外相会議の共同声明に中国側の意向が反映されるかは不透明だ。