「自分でやったほうが早い」は10代で捨てた――ファッションデザイナー・ハヤカワ五味が5つの肩書きで働く意味

2015.9.17 THU

社長、デザイナー、アルバイト、学生、インターン。

20歳のファッションデザイナー・ハヤカワ五味さんはいま、さまざまな立場で活動や事業に取り組んでいます。ものづくりをするにあたり、複業的な働き方はどんな影響を与えるのでしょうか。

「私は全体の方向を定めて、舵を切って、メンバーを一つにして、同じほうへと向かうようにすることが得意なんです。いま、いろんな肩書きがありますが、いちばん得意なのは社長です。これからも『長』というのはブレないと思います」

ハヤカワさんはものづくりだけでなく、人に影響を与え、価値観を変えていくことに自覚的かつ意欲的です。これまで手がけたファッション商品は、SNSを中心に話題になり多数のメディアで取り上げられてきました。

ツイッターのフォロワーが1万7千人を超え、発信力があり、人が集まるという意味で個人としてメディアとなっているでしょう。社長に向いているとしながらも、ハヤカワさんは複業的な働き方を実践し、ブランドを支えるチームワークにも気を配ります。

そんなハヤカワさんが次に手がけたいことはファッションじゃない? プレゼントやサプライズが好きなことで生まれた次の構想についても伺いました(取材・佐藤慶一、徳瑠里香、藤村能光[サイボウズ式]/写真・三浦咲恵)。

ハヤカワ五味(はやかわ・ごみ)
ファッションデザイナー。1995年、東京都出身。多摩美術大学グラフィックデザイン学科2年。高校時代から創作活動を始め、大学生になって立ち上げた胸の小さな女性のためのランジェリーブランド「feast by GOMI HAYAKAWA」は「品乳ブラ」として一躍有名に。2015年に株式会社ウツワを興し、代表取締役に就任。同年5月にラフォーレにてポップアップ出展。6月にランジェリー付きムック本『feast CollectionBook 2015 Summer』(泰文堂)を発売。Twitter:@hayakawagomi

起業したのは「盾」をつくるため

――「ハヤカワ五味」というチームには、どんなメンバーが集まっているんですか?

ハヤカワ:現状、集まっているメンバーは、基本的に自分の職業があったり、学生だったり、ほかにメインでやっていることがある人たちです。株式会社ウツワは今年立ち上げたばかりのベンチャーなので、採りたい人材は「どうしてもこのブランドを育てたい」という人になります。

やっぱり、本業を抱えながらもブランドにかかわってくれる人には高い熱量があります。私は才能や技術が抜群にあるわけではないので、まわりには個性も実力もあるメンバーが集まっていて、なんだかサークルのような感じです。

メンバーは20代~30代が中心ですが、メンバー以外にもメンターのような存在もいます。集まってくれる方はだいたい2種類に分かれます。

ひとつは、ブランドに共感してくださった方。もうひとつは、私自身の成長ストーリーを手助けしたいと思った方。後者についてはアイドルではないですが、急激かつ堅実に成長している姿を応援したいという方が集まってくださっています。

――今年創業した株式会社ウツワの代表は本名(稲勝栞:いなかつ・しおり)となっています。あえて名前を分けたのでしょうか?

ハヤカワ:そもそも会社を立ち上げようと思っていませんでした。すでに「ハヤカワ五味」のまわりにメンバーは集まっているので、わざわざ人を雇う必要はないですから。でも、なぜ会社にしたのかというと、まわりにフリーランスのデザイナーやクリエイターが多く、法人を相手に仕事をする際にどうしても立場的に弱くなってしまうからです。

いま、私自身のメディア力は強まってきていますが、フリーランスの個人だったら、社会的にも世間的にもたいした力はありません。そこで私が代表の法人をつくり、まわりの人たちを守ることも含めて責任を取りたいと思ったんです。だから、この会社は「盾」のようなものです。

それでも将来的にこの盾は壊れる可能性もあると思います。そうなったときに「ハヤカワ五味」やそれに関連する社名にすると、ハヤカワ五味自体も終わってしまう。それは惜しいので、代表は本名になっています。

――なぜ「ウツワ」なんでしょうか?

ハヤカワ:中身を入れたり変えたりできるように、という意味です。つまり、いまのブランドが急成長して会社のウツワに収まらなくなったとき、すぐにほかの会社に移せるように会社名とブランド名を分けています。

もちろんブランド以外にも、私やメンバーがこの会社に収まらなくなる可能性だってあると思います。そういうときに自由に出入りできるように、「かたちだけ」という思いで社名を付けました。

個性を伸ばし、配置することが得意

――社長もやりつつ、デザイナー、学生、アルバイト、インターンもやられています。いろんな肩書きのなかでも向き不向きはありますか?

ハヤカワ:ウツワの社長であり、面白法人カヤックのアルバイトでもある――という時点でよくわからないですよね(笑)。いろいろやっていますが、それでも自分の特性は把握しています。

実は私ってそんなにコンテンツ力がないんです。ツイッターのフォロワー数の割には、講演会やイベントで集客につながる確率も低くて……。そのことは自分でも自覚しています。

逆に人をまとめることやそれぞれの個性を伸ばしてうまく配置してあげることだけは本当に得意だと思います。もともとはアイデアを出すのが得意だと過信していたんですが、その能力はなくて。それよりも全体の方向を定めて、舵を切って、メンバーが一つになって同じほうへと向かうようにすることが得意なんです。

いま、いろんな肩書きはありますが、いちばん得意なのは社長です。これからも「長」というのはブレないのかなと思います。

――スポーツでいう「監督」のようなポジションですか?

ハヤカワ:そうです。選手として活躍できなかったとしても、監督として指導や采配が得意なケースはよくあると思います。私もいまのメンバーでどういう布陣でブランドづくりをしていくのかを考えるのが得意だし、好きです。

肩書きもコンテンツ力もそこまで変わらなくていい

――さきほど「コンテンツ力があまりない」という話がありました。少し意外ですが、コンテンツ力を上げようと思うことはないんですか?

ハヤカワ:う〜ん、同世代で活躍している人をみると、コンテンツ力を高めようとしていることが多いと感じるんです。やっぱり若いうちに目立つと、それが自分の力だと思いすぎることもあると思います。でも私は高校生のときに、一通りそういう経験を味わってて。「現役高校生デザイナー」という肩書きもあり、すごいチヤホヤされて、当時はひとりでなんでもできると思っていました。

でも結局、まわりの人がいないと動けないんだと実感しました。それと同時に、世間的な評価だけが得られてもすごく空虚な感じがしたんです。いまは最低限の収入でいいし、肩書きも変わらなくていいし、コンテンツ力もそこまで変わらなくていいと思っています。

――高校生のころは、個人のコンテンツ力を信じていたけれども、いまではチームや組織の重要性を実感するようになった。

ハヤカワ:もちろん、集まってくれているメンバーのために、私がコンテンツ力を高めたほうがいいこともあると思うんです。ただ、私にこれ以上のコンテンツ力があったとしても、発信力を頼られるような仕事ばかり来そうなので……それだとおもしろくありません。だから冷静になって、選択しなくちゃいけないと思っています。

マネジメント力がなくてもチームはまわる?

――「複業」的な働き方をされていますが、専業になるという選択肢はありますか?

ハヤカワ:私にとって、複数の肩書きで働くのはごく自然なことです。同じ場所で週5日働くというのは無理です。というのも、つくりたいものがたくさんありますし、クライアントがいて制約のあるなかで仕事をするのも好きだからです。そこをバランス取りながら仕事をすることで、相互に生きてきますし、考え方もあまり偏らないようになります。

専業は考えていませんが、仮に専業になるならば社長や代表かなと思います。ただマネジメントができないので、そこを誰かに任せてしまうと、社長の仕事はほとんどありません(笑)。だから、別のこともやりながらバランス保ち、雇われる側の気持ちも理解していたいので、ひとつに絞るということはないです。

私はいまの仕事を趣味的にやっている部分もあって、それをうまく収益化するのに広告の考えを使っているという感じです。複業的な働きかただからこそ、やりたいことが実現できると思っています。

――マネジメント力がなくてもチームがまわるコツってあるんでしょうか?

ハヤカワ:まず、うまくまわっていないチームはリーダーが「自分ひとりでやったほうが早い」と思っているケースが多いと思います。私は自分がやると早くないので、「この人がやるからいちばん早くて意味がある」と思って仕事を振ります。上に立つ人には、個性や才能を拾い、その人の性質や特徴を理解し、チームメンバー同士の相性を瞬時に考えて体制を組むことが求められます。

なにより大切なのは、自分が基本的に動かないこと。むしろ「動いたところでなにも変わらない」と考えて、才能の采配をするのが大事なんです。たとえばコミュニケーションが不得意なメンバーがいたとして、それでもなにかひとつは得意なことや関心が強いことはあると思っています。

私は事務作業が苦手でつまらないと感じますが、それが得意な人もいて、むしろ好き人もいます。「ハヤカワ五味」に集まるメンバーの特徴を正確に見抜いて、適切な仕事を振ることがチームをまわすコツかなと思います。

――過去のインタビュー記事で、次世代の育成もしたいという旨を話していました。いつくらいにそういった人のデザインに移行していくのでしょうか?

ハヤカワ:ざっくりですが、35歳くらいがブランドづくりや発信に力を入れる区切りになるのかなと思っています。頭のいい人であれば30代以降でも自分のコアな部分を持って情報発信できると思うんですけれど、私にはなにもないので、他人の目を気にした発信になってしまう気がするんです。自分が老害になりかねないというか、迷惑ばかりかけちゃうんじゃないかって……(笑)。

そうなるのであれば、メディアを使った情報発信があまり上手でない人を伸ばすようなことができたほうがいいなと思っています。私はまだ20歳になったばかりですが、いまがあるのは、まわりの大人のアドバイスがあったからです。35歳まで全力でブランドをつくり、それ以降は下の世代やまわりに経験やアドバイスを提供していきたいです。

ロリータ服というメディアに強い影響を受けた

――ところで、ハヤカワさんがはじめてつくったものってなんだったんでしょうか?

ハヤカワ:最初に意識的に作ったものは、欲しかったロリータ服のひとつを手に入れたときに、それに合うアイテムをつくったことです。たとえばこのロリータ服であれば、白と黒のドットのカチューシャを作ろうかなとか、そういうことを考えていたのが楽しかったんです。

ロリータ服にはとても強い影響を受けました。デザイン自体かわいいですが、それ以上に相手に与えるイメージがめちゃくちゃ強いじゃないですか。だからこそ弊害もあるんですが、だからこそメディアとしての影響力も強いと思います。

――そういったアイテムづくりから、服をつくろうと思うようになった動機はなんですか?

ハヤカワ:高校生のときはロリータ服が買えずに自分で作ったこともありますが、出来としてはまあまあという感じでした。でも、ものづくりをしていると、ある程度のところで友だちに見せるじゃないですか。そうすると、ほかの人から欲しいと言ってもらうこともがあって、そこから人のために服や水着をつくるようになりました。

sweet gingham Set (feast by GOMI HAYAKAWA)

ストーリーやプロセスの価値をもう一度広めていく

――自分のためにつくっているときと、ほかの人のためにつくっているときで、どんな変化がありましたか?

ハヤカワ:人のためにつくるときには、こうすれば喜んでくれるかなと思いながらつくるのがやりがいでした。そして、つくったものをあげた瞬間に喜んでもらえることや、実際に付けてくれることも嬉しかったです。

もともとサプライズやプレゼントが好きなので、コミュニケーションを設計してちゃんと人に届けて価値観を変えることまでが、ものづくりだと思っています。だからこそ、販促や広告、メディアの重要性が実感できているのかもしれません。

――アウトプットだけでなく、そのプロセスも重要視する。特にコミュニケーションの設計は、ファッションに限らずメディアにも求められてきています。

ハヤカワ:実は次に考えているサービスは、ファッションではありません。プレゼントに関するものをやろうと思っています。いまはメディアやサービスが進化しすぎていて、プレゼントを考えるという、まさにプロセスの時間が少なくなっているような気がするんです。

友達の誕生日にとりあえずAmazonのウィッシュリストにあるものを買って送ったり、下着メーカーの通販には「おねだり機能(買ってほしい男性にメールを送ることができる機能)」があったり、そういうのって発達しすぎたテクノロジーの弊害というか。プレゼントって、渡すことよりも渡すまでのストーリーや過程のほうが大事だと思うんです。

その価値観をもう一度広めていきたいです。これまではファッションを主軸に人に影響力を与えて価値観や仕組みを変えることに挑戦してきました。そのコアな部分をブラすことなく、IT分野でも同じようにやりたいと思っています。

――たしかにテクノロジーが発展したことで、利便性が上がる一方、いろんなプロセスが省略されていきました。

ハヤカワ:私たちの世代はデジタルとアナログの世界をどちらも経験した最後の世代かもしれません。すごく考えてメールを送って、送った後も見返して……という経験をしているのは強みになると思います。

いまの時代、手段や行動だけに重きが置かれすぎていて、そこに至るまでのストーリーがないがしろにされていると強く感じるんです。プレゼントを選んでいるとき、手紙を書いているとき、デートプランを考えているとき、そういう時間こそ楽しいし、本質があると思っています。

だから、テクノロジーによって簡単になりすぎたものをまた少しむずかしくしたい。やっぱり考える手間を省いたプレゼントはもらう側も気付くし、なんか嫌じゃないですか。

プレゼント事業の原動力は私の情熱や感性によるものですが、アプリなどのかたちになったあと、どのように広めて収益化していくのかについては冷静になって考えます。そうやって、また、人の価値観に影響を与えていきたいです。

編集後記
社長として"才能の采配"に徹するプロデューサー志向をもつハヤカワ五味さんは、出版の世界における編集者のようでした。それ以上に、自分自身やファッションがメディアであることに自覚的な一方、メディアやコンテンツに対して的確な距離をとり、それらの力を過信しすぎない発言も印象的でした。そして次に準備している事業がファッションではないように、ハヤカワさんの軸は「人に影響を与えること」や「人の価値観を変えること」。情熱と冷静のあいだを行き来するものづくりから、これからどんなものが生まれていくのか。とてもワクワクします(佐藤慶一)。

おわり。