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「クロニクル 日本の原子力時代」書評 事故後も引き返せぬ社会の背景

評者: 杉田敦 / 朝⽇新聞掲載:2015年09月27日
クロニクル日本の原子力時代 1945〜2015年 (岩波現代全書) 著者:常石 敬一 出版社:岩波書店 ジャンル:技術・工学・農学

ISBN: 9784000291705
発売⽇: 2015/07/17
サイズ: 19cm/192,17p

クロニクル 日本の原子力時代 一九四五〜二〇一五年 [著]常石敬一

 年表は無味乾燥に見えて、多くを語る。ある出来事があったから、次の出来事があったのだということが明瞭になる。そして、同時期の二つの事象は、無関係のようでいて、しばしばつながっているのである。
 本書は、原爆投下から現在までの、原子力関係の事柄や、それにまつわる言説を年代順に淡々と記述する。戦中の日本の科学者は、連合国の核兵器開発を「デマ」と見くびった。原発導入前から、日本では地震が大問題となるという警告があったが、それは無視され続けた。
 「豊かさ」を求め、人びとは、左右を問わず「原子力の平和利用」に飛びつく。核燃料についての日米原子力協定が結ばれた年には、原爆で廃虚となった長崎の浦上天主堂の撤去作業が始まる。スリーマイル島事故も、チェルノブイリもやり過ごされた。希望的観測によって維持・推進されてきた原子力体制から、過酷事故後も引き返せない社会の背景が浮かび上がる。
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 岩波現代全書・2160円