焦点:拡大する福島原発訴訟、国と東電の賠償額増える可能性も

焦点:拡大する福島原発訴訟、国と東電の賠償額増える可能性も
 8月17日、東京電力福島第1原発事故をめぐり国や東電を提訴する原告数が約1万人規模に拡大してきた。写真は、東京電力のロゴ、2012年7月撮影(2015年 ロイター/Yuriko Nakao)
[いわき市(福島県)/東京 17日 ロイター] - 東京電力<9501.T>福島第1原発事故をめぐり国や東電を提訴する原告数が約1万人規模に拡大してきた。一部の訴訟では、大津波の発生を「想定外」としてきた東電の主張に関し新たな資料も提出され、同社の過失の有無も争点として浮上。過失責任が認定されれば、補償額が一段と増える可能性もある。
一方、同社の勝俣恒久元会長ら旧経営陣3人については業務上過失致死傷の罪で強制起訴が決まり、同原発事故は刑事裁判にも発展する。
<避難と賠償、終息狙う政府・東電>
集団訴訟の代理人の一人、米倉勉弁護士によると、同事故に関して全国で20以上の訴訟が提起され、原告数は1万人規模に達した。公害訴訟における原告数は沖縄県の米軍嘉手納基地騒音訴訟(第3次、2011年提訴)の約2万2000人が最大とみられるが、福島原発事故関連の訴訟は、戦後に起きた「4大公害病」訴訟で最大の熊本水俣病関連訴訟の原告数約8000人(通算)を上回っている。
福島訴訟の争点の一つは、政府・東電が主導する帰還促進と賠償打ち切りの妥当性だ。政府は6月12日、「避難指示解除準備区域」と「居住制限区域」の2区域(約5万5000人)に対する避難指示を2017年3月までに解除し、両区域の避難者の精神的損害に東電が支払う賠償(慰謝料)は18年3月末で終了する方針を発表した。さらに東電は、商工者向けの営業・風評被害に対する賠償は2年分を一括で支払い、その後は原則打ち切る。
東電はこの方針を反映した再建計画を政府に提出、7月28日に認定された。これにより、6兆円強だった賠償額の見込みは7兆円強に増えるものの、大部分の賠償金は原則として打ち切られる。
避難指示解除の目安となる放射線量について、政府は年間20ミリシーベルトを「確実に下回る」ことを要件とした。しかし、被災者の間では「高すぎる数値で安全性は確保できない」との見方が圧倒的だ。
原告団の一人で、原発が立地する双葉町で養蜂業を営んでいた小川貴永氏(45)は6月10日、福島地裁いわき支部で開かれた口頭弁論で「原発災害で生活が一変した」などと政府・東電を非難。同氏は「帰還困難区域」に自宅があり、妻子とは別の仮設住宅で避難生活を強いられている。原告団は1人当たり2000万円の慰謝料などを東電に要求している。
<問われる国と東電の責任>
約4000人が参加する「生業を返せ、地域を返せ訴訟」(13年3月福島地裁に提訴)。東電の過失責任と安全規制を怠った国の監督責任を指摘し、放射線量を事故前の水準に戻す原状回復、できない場合は1人月5万円の賠償を求めている。
原告団の狙いは「原子力損害賠償法」にもとづく賠償スキーム見直しだ。同法では「被害者保護」と「原子力事業の健全な発達」を目的としており、事業者の「過失責任」の有無は問われない。
同原告団は東電と国に対し、それぞれ民法709条(不法行為による損害賠償)などと国家賠償法1条(国の故意・過失による損害賠償)に基づいて責任を追及している。公害問題に詳しい除本理史・大阪市立大学教授は、国や東電の過失を司法が認定した場合、原賠法のもとで決まる損害賠償額よりも「大幅かどうかわからないが、増える可能性はある」と述べた。
同訴訟の代理人を務める馬奈木厳太郎弁護士によると、福島地裁は「過失の存否は重大な争点」との見解を示した。被告の国も東電も、過失はなかったと主張している。
<津波の想定めぐり新資料>
東電旧経営陣らの責任を追及する株主代表訴訟(原告42人、12年3月東京地裁に提訴)で、東電側は裁判所の要請に基づき、2008年9月に同原発の小森明生所長(当時)らが出席した社内会議の資料を提出した。
同資料には「津波対策は不可避」との記載があり、事故前から同社内で津波の危険が認識されていたことを示唆。大津波の襲来を「想定できなかった」としてきた東電の説明と異なる内容と原告側は主張している。
東電側は、同地裁に提出した準備書面で「津波が現実的に襲来する危険性が存在することを意味するものではない」と反論。しかし、訴訟代理人の河合弘之弁護士は「津波対策の必要性を東電が認識していた何よりの証拠。裁判に重要な影響を与える」と指摘している。
一方、東京第5検察審査会は7月17日に勝俣元会長ら3人を業務上過失致死傷の罪で強制起訴すべきと議決。同検察審は14年7月にも「起訴相当」と判断したが、東京地検は今年1月、「事故の予見可能性、結果回避可能性及びこれらに基づく注意義務は認められない」として不起訴とした。しかし、同審査による起訴すべきとの判断は2回目で、勝俣氏らは強制起訴される。31日公表の議決文は大津波の発生に「具体的な予見可能性があった」などの判断を示した。

浜田健太郎 編集:北松克朗

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